救いようのない政権には救えない【小松泰信・地方の眼力】2021年1月27日
新型コロナウイルスに感染した東京都内の30代の女性が、自宅療養中に亡くなった。自殺と見られている。小学生の長女も陽性だったことからか、「学校でコロナを広めてしまった可能性がある。娘の居場所がなくなるかも」と、悩んでいたようだ。
女性の自殺急増
2020年の自殺統計(速報値)を警察庁が公表した。自殺者は女性6976人、男性13943人、合計20919人。19年の確定値から、女性885人増加、男性135人減少、計750人の増加。10年連続で減少していた自殺者が、リーマン・ショック後の09年以来、11年ぶりに前年を上回った
対前年比で、女性14.5%増、男性1.0%減、計3.7%増。女性は1月から5月までマイナスだったが、6月からプラスに転じ、8月には88.6%増という驚くべき増加率となった。11月には20.9%まで下がったものの、12月には29.0%に再び増加した。男性も2月から7月はマイナスであったが、8月以降プラスに転じている。
居場所をなくす女性
西日本新聞(1月23日付)には、「厳しい状況だ。コロナ禍がさまざまに影響している可能性がある」との、厚労省自殺対策推進室のコメントを紹介したうえで、女性に深刻な影響が及んでいることを伝えている。
まず24時間体制でチャット相談を受ける特定非営利活動法人「あなたのいばしょ」のウェブサイト(昨年3月設立)には、すでに約3万人から相談が寄せられている。その8割が女性で、7月以降悩みが複雑化するケースが増加しているとのこと。
野村総研は昨年12月にパート・アルバイトの女性約5万5000人を対象に感染拡大後の状況調査を行った。それによれば、勤務シフトが半分以下になった人が1割。うち休業手当を受けていない人は7割。シフトが減少した人のうち2人に1人が「金銭的理由で生きていくのが難しいと感じる」と、回答しているそうだ。
また内閣府によると、20年4月から11月の8ヶ月間における、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者からの相談件数(暫定値)は、約13万2000件で過去の同時期と比べて、過去最多とのこと。
「外出自粛で家族と過ごす時間が増え、家庭内でトラブルを抱えていた女性が居場所をなくしている」ことを強調するのは、NPO法人「くにたち夢ファーム」(DVや虐待などの被害を受けた女性の自立を支援)の遠藤良子理事。
救える命を救え
この問題に関して、読売新聞(1月26日付)の社説は、「再度の緊急事態宣言で、女性の就業が多い飲食や宿泊業界が打撃を受けている。昨年、非正規で働く女性は月平均約50万人減った。在宅勤務の広がりで、育児や介護の負担も増している。昨年の家庭内暴力の相談は前年より5割増えたという。困窮家庭や一人親家庭を官民で支え、事態の悪化を食い止めねばならない」とする。
そして、「自殺者の7割が、一度は医療機関や相談窓口を訪れていたという調査結果もある。相談内容からリスクの高い人を見極め、包括的な支援につなげることが重要だ」とし、「相談を待つのではなく、苦境にある人には積極的に支援を届けてほしい。家庭や職場、学校で周囲に目を配り、救える命を増やしたい」と、訴えている。
救う気がない救いようのない政権
21日の国会で、国民民主党玉木雄一郎代表が特別定額給付金の再支給を提案したが、菅首相は「再度支給することは考えておりません」と拒否。
麻生太郎財務相も、22日の閣議後記者会見で、「あれは税金ではなく政府の借金でやっている。さらに借金を増やすということか」「税金でやるという発想が間違い。あなたのために、あなたのご子孫に借金を増やしていくということなんでしょうか」と、取り付く島もない。
多くの国民は、コロナ感染に怯えている。倒産や解雇などで、明日への希望を見つけられず、自殺しかねない国民も増えている。打てる手は打つ。後世を意識した取り組みは、終息後に熟慮し、着手すればよいはず。そもそも、菅氏や麻生氏らが、本気で後世のことを考えているとは思えない。
菅首相は、1月18日の施政方針演説における新型コロナウィルス対策の中で、「前年と比べ、自殺者が五か月連続で増加し、とりわけ女性が顕著な傾向にある事態を重く受け止め、SNSを通じた相談窓口などにより、不安に寄り添う体制を強化します」と女性の自殺問題に言及している。精神的な寄り添い以上に大切なものは、先立つもの。
しかし、昨日(26日)衆議院を通過した2020年度第3次補正予算案に、救える命を救おうとする姿勢はみじんも感じられない。
当たり前でない菅政権
日本農業新聞(1月26日付)の論説が吉川貴盛氏らの贈収賄事件を取り上げた。
興味深いのは、農水省幹部がアキタフーズと吉川氏らの会食に同席したことに注目し、「同省は国民目線で疑惑を解明し、説明責任を果たさなければならない」と、事件の主役吉川氏よりも農水省の責任を追及する姿勢を滲ませていることである。
我が国は、採卵鶏のアニマルウェルフェア(AW:快適性に配慮した家畜の飼養管理)を厳しくする国際基準案への反対意見を国際機関に提示した。これが、賄賂などによって歪められたものだったと、国民から疑念を持たれないかを危惧し、「今回の事件で農政不信を招いてはならない。危機感を持って同省は対応すべきである」とする。
そして「政策提案などそれ自体が政官との癒着と誤解されないよう産業界は情報を広く発信し、開かれた活動に努める必要がある」とする。しかしよくよく考えれば、農政メディアにもその責任はある。
吉川氏の説明責任にはまったく触れず、影の主役と目される西川氏の名前すら挙げていない論説に説得力はない。
1月27日付の同紙によれば、26日の衆院予算委員会で立憲民主党の本多平直氏が、「(西川氏本人が)現金授受の説明をするべきではないか」と指摘したが、菅首相は「既に一民間人となっており、資金提供の有無を含めて政府として答えるべきではない」と、述べるにとどめたそうだ。
このガースー!一民間人になれば、「カネ持ってこ~や」で農政を歪めても不問に付されるわけか。冗談じゃない。アンタの言葉を使えば、これは、「国民の感覚から大きくかけ離れている、当たり前でないこと」なんですよ。
「地方の眼力」なめんなよ
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