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除草剤、夏の田んぼ、農業祭【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第134回2021年1月28日

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多肥と生育期間の延長は雑草の繁茂を引き起こすので収量や品質に悪影響を及ぼす危険性がある。それを解決しようとすれば、そうでなくてさえ厳しい除草労働はさらに厳しくなる。しかしそうならずにすむようになっていた。除草剤が開発されていたからである。

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戦後、DDTと並んで、というよりそれ以上に私に衝撃を与えたのは2,4-Dだった。雑草を殺してくれる薬、除草剤だという。そんな強い薬なら稲や麦なども害を受けるだろうというと、稲や麦には被害を与えないというのである。これこそ厳しい水田除草労働からの解放をもたらすものだった。

やがて私の生家でも使うようになり、これまでのような田んぼをはいずりまわるきびしい労働から両親や祖父が解放された、何かほっとしたものだった。

しかし、ヒエ抜きの労働は残った。ところが、そのヒエも退治する除草剤PCPが開発されたことで解決した。これは稲には影響を与えないがヒエも含む雑草はすべて枯らすというもの、しかも発見したのは山梨県農試の研究者だった。

これで炎天下でのヒエ抜き労働からも解放されることになった。養分が雑草に横取りされることもなく、増収も可能にした。

これには驚いた。イネは大丈夫で他の草は枯らす、こんな器用なこと、ウソみたいな夢のようなことができるなんて、考えもしなかった。うれしかった。

重労働からの解放のきざしが耕起代掻に続いて除草においても見られるようになったのである。しかも増収を可能にしながらである。これは本当にうれしかった。夢のようだった(それがどういう問題をもっていたか、当時はあまり考えなかった)。

こうした肥培管理技術の変化のなかで、初夏から初秋にかけての田んぼの風景は大きく変わった。雁爪もしくは手押し除草機による一番除草、手押し除草機による二番除草、稲のまわりの草を手でとる三番除草、畦草刈りなどに出る人の数は少なくなった。

かわりに、除草剤散布、何回にもわたる追肥と水管理、散粉機を背負っての農薬散布をする人の姿が多く見られるようになった。

みんなみんなさらなる増収を目指した。そのためのさらなる新たな技術を求めた。

しかし、農協の多くはそれに十分に応えることができなかった。再建整備の途上にあって営農指導事業がまだ弱かったからである。だから、これらの技術の普及・指導に歩く農業改良普及員は農家に大歓迎された。その印として農家はどぶろくを出す。私の生家も当然そうした。そしたら私の祖母がつくったどぶろくはうまいという評判がたったようで、よく普及員が自転車に乗ってやってきた。当時緑色の自転車が普及員の「公用車」だったが、帰りには「緑の自転車に赤い顔」となる。それで田んぼに落っこち、「黒い自転車に黒い顔」になったなどという笑い話が広まったりもした。

また、新技術の開発と普及に当たる県立農業試験場が年に一度秋に開催する「参観日」(「農業祭」と名称を変えた県や、秋田のように明治期に開かれた「種苗交換会」という名前をそのまま何十年にもわたって用いているところもある)は多くの農民で賑わった。当時私の生家のすぐ近くにあった山形県農試は、隣にある小学校の校庭まで借り切って参観日を開き(たしか三日間だった)、そこに県内各地から、汽車やバスを乗り継ぎながら、自転車をこぎながら、農民が集まった。試験圃場、品種や新技術を紹介する研究室、農機具・肥料・農薬などの展示会場は人の波で埋まり、新品種を紹介する圃場などは長蛇の列で、熱気があふれていた。農民の生産に対する意欲の盛り上がりがまさに目に見えるという感じだった。

しかし、やがて高度経済成長期に入ると農民の参加は少しずつ減り、淋しいものになっていった。あの時期、1950年代が生産意欲の盛り上がりの絶頂の時期だったといってよいだろう。あの熱気が何ともなつかしい。

酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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