(216)農家の皆さん、本当に「お元気」なのですか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年1月29日
「2020年農林業センサス結果の概要(概数値)」に示された「年齢別基幹的農業従事者数」は、2020年2月1日時点で136万人です。このうち、統計上の生産年齢(15~64歳)を超えた65歳以上が95万人(内訳は男性57万人、女性38万人)と、実に全体の70%を占めています。さらに、80歳以上は24万人(男性14万人、女性9万人)と、全体の17%を占めています。
これを簡単に言えば、日本農業の現実は、統計上、生産活動の中心ではない、「生産年齢を超えた人達」により担われているということになります。
65歳以上の基幹的農業従事者割合が50%を超えたのは約20年前、2000年頃のようだ。10年後の2010年には61%となり、2020年には70%と割合は着実に増加している。
一方、その間に絶対数は大きく減少している。2000年の240万人から2010年には205万人、2020年は先のとおり136万人である。そして、その136万人の7割、95万人が65歳以上という訳だ。
今年の4月からは改正高齢者雇用安定法、いわゆる「70歳就業法」が施行され、日本社会におけるサラリーマンは希望すれば70歳まで働けるようにする "努力義務" が企業側に課せられるという。背景には平均寿命が延びただけでなく、いわゆる健康寿命が延び、その結果、「元気な高齢者」が増加したこともある。
実際、若い方がどのように思っているかは別として、筆者自身も、20代の頃に何となく見ていた当時の60歳の方々のイメージとは随分変わったのではないかと感じている。食事や栄養状態、医療や居住環境、遺伝など、人の老化には様々な要素が影響するため一概には言えないが、一般的に今の高齢者は、半世紀前の同年代の方々より外見も行動も若い(幼い?)のかもしれない。そして、それを裏付けるかのように、人生100年時代をいかに謳歌するかということが書かれた書籍は何冊も出版されている。
一方、高齢者なるが故の問題も多い。厚生労働省が毎月公表している「介護保険事業状況報告」を見ると、昨年10月時点で、全国で要介護認定を受けた人は665万人に達している(第1号被保険者のみ)。詳細は省くが、このうち要介護2以上の人は343万人(51%)、半分である。要介護3以上は229万人(34%)、1/3となる。
さて、農作業にもいろいろあるため一概には言えないが、要介護認定を受けた人が農作業に参加できるのはどの程度までだろう。ネットを見ると、要介護3弱でも環境を整備すれば何とか可能な例などが紹介されている。実際問題としては人と環境に応じて要介護2~3くらいまでが「元気な高齢者」として農作業に従事する上限なのかもしれないが、それこそ詳細はわからない。
なぜ、このようなことを言うかといえば、先に述べた7割、65歳以上の基幹的農業従事者95万人の中で要介護認定を受けている人の割合、さらに年齢別・要介護度別の割合についてはどうも総人口に占める割合などから推定し、試算するしかないようだからである。これは筆者の理解と調査不足かもしれない。そもそもこの2つは共に重要だが、これをしっかりとリンクさせてみようとは情けないことに今まで余り考えてこなかった。
一度考え始めると、すぐにいくつかの疑問が生じてくる。
例えば、我々は何となく65歳以上の基幹的農業従事者95万人全員を「元気」な高齢者と想定しがちだが、実は半分が要介護2以上、1/3が要介護3以上と考えたら良いのだろうか。それとも、様々なところで言われているように、農業は老化防止や健康に良いため、基幹的農業従事者に占める要介護認定の割合は総人口に占める割合より、明らかに低いのだろうか。
そして、仮にその割合やパターンが一般と異なる場合にはどのような特徴があるのだろうか、等である。また新たな研究テーマが出来たようなものである。
個別の事例や地域研究、例えば「○○村の...」などの中ではこの2つを結び付けたものがいくつか見つかったが、どうも農林水産省の統計と厚生労働省の統計をざっと見た限りではうまく合致するものが見当たらないうちにコラム原稿の締切りとなった。
さて、現代の農家はいったいいくつまで本当に「元気」なのだろうか。
* * *
ひとつひとつはよく認識していても、それが全く独立し、さらに確立していると、その両者を結びつけることはなかなか難しいのかもしれません。本当の現場の問題は両者を結び付けてこそ見えてくるのですが...。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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