ポジショントークで裏をかかれた集荷組合【熊野孝文・米マーケット情報】2021年2月2日
コメに限ったことではないが、相場を語る際によく出て来る言葉に「ポジショントーク」と言うのがある。売りたい強気、買いたい弱気といった発言をそう称しているのだが、1月26日に実施された3年産政府備蓄米買入入札では事前のポジショントークが各地で頻発した。県の優先枠が設定され、なんとしてもその枠で落札したい応札資格業者はそうした発言を繰り返し、自社玉を落札する術に出たのが、フタを開けてみると見事に裏をかかれたという集荷組合もいた。
1月27日、3年産政府備蓄米落札結果が農水省より発表される時間より前に各産地から落札結果の情報が筆者に寄せられた。その際、思わず「嘘だろう」と言ってしまった。なにせ次々に伝わって来る情報はいずれも不落という結果ばかり。中には1万2150円で応札したにも関わらず、落ちなかったという業者もいた。入札前の事前情報のやり取りでは「どうしても落としたいなら1万2200円で札入れすれば良い」と言われていたのだからそれよりも安い価格で札入れしたにも関わらず落ちなかったというのだからにわかには信じられなかった。
落札結果はすでに公表されているが、それを整理すると、入札参加資格者は182社団体、実際に札入れしたところは131社団体、落札者数は30社団体で、落札出来たこところは2割強に過ぎない。買入予定数量は20万7000tであったが、応札数量は38万4789tで実に1.85倍に達した。落札数量は20万5223tでほぼ枠が埋まり、このコラムで予想した通り一回目から「1発勝負」になった。もう少し詳しく見てみると、入札数量が多かった県は、青森県が県の優先枠に対して2倍の5万7151t、福島県が同じく2.14倍の5万8052t、優先枠が少なく競争が激しかったのが千葉県で3.79倍の1万5100tもの応札があった。全国的な傾向は、応札数量が多いのは東日本に集中しており、西日本では応札数量ゼロと言う県も複数県ある。
28日にコメ関連団体等少人数で落札結果と今後の見通しについて情報交換会が行われたが、そこでの分析結果では、応札業者は系統別では、農協系統が26万1000t、商系集荷組合が2万3000t、大手卸商社等が10万tで、大半は農協系統が落札、商系は落札出来たのは2割にも満たなかった。落札価格は県によって大きく違い1万2000円でも落札出来なかった県がある一方、1万3000円でも落札出来た県があった。農協系統の落札価格は1万1800円が中心値と推計されるが、新潟と秋田は1万2400円で落ちている。大手卸は売り上げ確保のために格安の手数料を持ちかけて農協から委託を受けたと言った情報も紹介された。
今後の動向については、産地の優先順位としては政府備蓄米が第一で、これの決着がついたので、2番目の優先順位である「加工用米」の契約に焦点が移る。水田リノベーション事業の支援を受けるためには、何よりも販売先を確保することが重要であり、3月5日までに契約先を確保、ここで一端中間とりまとめを行うことになる。契約先として最も有力視されるのは新潟県の大手米菓メーカーで、農協系、商系と分かれて説明会を開催したが、おそらく3年産加工用米を供給する側は米菓メーカーが求める価格までは引き下げられない。精米1kg180円、玄米換算1俵8000円が価格交渉の焦点になる。これが出来なければ産地側はエサ米として処理するしかないという予想。
輸出用米の契約としては最も有利なのがパックご飯の原料米として契約することで、産地ばかりかメーカーにも支援策が講じられ、単年度での輸出義務が課せられているわけではないので長期スパンでの取り組みが可能。
主食用米への影響については見方が異なる。なにせまだ作付もされていない3年産米の見通しを話し合っているのだからこれはやむを得ないが、一つの見方として買入予定枠を12万tもオーバーする応札があったことはコメの作付自体は減らないが、政府備蓄米に回す分はいわゆるBランクのコメが多くなると見られ、その分業務用米は供給量が細る。ただし、今年11月以降販売しなければならない2年産調整保管玉が20万tあるので需給が締まることはない。現在まで状況は事前契約をしていなかった卸が最も有利なポジッションにあり、市中でスポット玉ばかりか端境期までの先渡し契約を進めており、玉確保の目途はついている。商系の浮動玉が薄くなっても調整保管玉を前倒しで購入すれば良い。こうした見方もポジショントークと同じではないか言われそうだが、心配なら先物市場で買い建て玉のポジッションを取れば良い。
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