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「みどりの食料システム戦略」は期待できるか【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年2月4日

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農薬使用量の半減や有機農業面積を25%に拡大するなどを目標とする欧州の「ファーム to フォーク」(農場から食卓まで)戦略(*)、カーボンフットプリント(生産・流通・消費工程における二酸化炭素排出量)の大幅削減などを目標とする米国の「農業イノベーションアジェンダ」(**)が2020年に公表されたのを受けて、我が国もアジアモンスーン地域における農業のグリーン化(環境負荷削減)モデルを策定して、世界の食料・農業グリーン化のルールづくりにも積極的に参画するために「みどりの食料システム戦略」の策定が進められている。

*【「ファーム to フォーク」(農場から食卓まで)戦略】(農水省資料)

EU(欧州)委員会は、2020年5月に本戦略を公表し、欧州の持続可能な食料システムへの包括的なアプローチを示している。今後、二国間貿易協定にサステナブル条項を入れる等、国際交渉を通じてEUフードシステムをグローバル・スタンダードとすることを目指している。

・次の数値目標(目標年:2030年)を設定。
・農薬の使用及びリスクの50%削減
・一人当たり食品廃棄物を50%削減
・肥料の使用を少なくとも20%削減
・家畜及び養殖に使用される抗菌剤販売の50%削減
・有機農業に利用される農地を少なくとも25%に到達

など。

**【農業イノベーションアジェンダ】(農水省資料)

米国農務省は、2020年2月にアジェンダを公表し、2050年までの農業生産量の40%増加と環境フットプリント50%削減の同時達成を目標に掲げた。さらに技術開発を主軸に以下の目標を設定。

・2030年までに食品ロスと食品廃棄物を50%削減
・2050年までに土壌健全性と農業における炭素貯留を強化し、農業部門の現在のカーボンフットプリントを純減
・2050年までに水への栄養流出を30%削減

など。

「みどりの食料システム戦略」は、農林水産省の新たなチャレンジであり、持続的な食料システムの構築に向け、
(1)基本計画に掲げた生産基盤の強化を持続性ある形で進める(基本計画は閣議決定、みどり戦略は農水省策定)、

(2)時間軸を設け、革新的な技術開発と社会実装(***)を段階的に進める、

(3)生産者、事業者、消費者が各段階で取り組む、

という点がポイントと説明されている。

***「社会実装」とは研究成果を社会問題解決のために応用すること。

「みどり戦略」には、2050年までの目標として、農林水産業のゼロエミッション化、ネオニコチノイド系を含む化学農薬使用量の削減、有機農業面積の拡大(目標値を示すまでには至っていないが)、地産地消型エネルギーシステム構築に向けての規制見直しなどが掲げられている。

しかし、その実現に向けて、イノベーション、AI、スマート技術などの用語が並び、「高齢化、人手不足だから、AIで解決する」と言う方向性は、人がいなくなって、企業的経営がぽつんと残り、コミュニティは崩壊し、多様な農家が共存してコミュニティが持続できる姿が見えてこない、ように一見すると見受けられる。

これは、中小経営や半農半Xも含む多様な経営体が地域農業とコミュニティを支えることを再確認した、新たな食料・農業・農村基本計画と相反するように思われる。しかし、「みどり戦略」の策定は、新基本計画に多様な経営体の重要性を復活させた人達によって行われており、「大規模化のための技術でなく、篤農家でなくても誰でも農業ができる技術を普及することで、農業や有機農業のすそ野を広げ、農村に人を呼び込めるようにしたい」という意図が示されている。ここに期待したい。

「イノベーション」という用語も、伝統継承の上での延長上でのイノベーションは、「誰でもできる有機農業」につながる。民間稲作研究所などによる有機稲作での「抑草法」(二度代掻き、成苗1本植えなど、雑草の生理を科学的に把握したうえでの農法)は、その意味で、イノベーションとも言える(久保田裕子氏)。こうした技術の普及が重要である。

ただ、現状のAI・スマート農業関連事業については、相当の大規模区画でないと有効でなく、もっと現場に足を運んで、現場の状況を踏まえた事業提案をしてもらわないと使えない、という声が大規模経営層からも挙がっており(2021年2月3日に聴取)、誰でも使える技術にしていくには課題は大きいと思われる。

また、「みどり戦略」では、目標の実現行程も段階的な進め方を具体的に提示しようとしている点も、ただのアドバルーンにしないための従来にない工夫である。さらには、見た目重視の消費者・流通業者の意識改革を進めることも視野に入れており、多角的取り組み姿勢が示されている。

一方、予期せぬ遺伝子損傷などで世界的に懸念が高まっているゲノム編集について、無批判的に推進の方向(トマト、イネ、ジャガイモ、コムギなど)を打ち出そうとしている点は大いに問題となろう。今年の5月の決定が目指されているが、こうした点の是正を含め、小規模・家族的農林漁業などを含む多様な農業に配慮する方向性がしっかりと組み込まれ、地域のinclusiveな(あまねく包含する)発展につながる戦略になるよう、各方面からの働きかけ、インプットが重要と思われる。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら

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