「本能寺の変」それから 光秀型と秀吉型「二つの道」【記者 透視眼】2021年2月8日
7日夜放送のNHK大河「麒麟がくる」最終回は視聴率が跳ね上がった。クライマックス「本能寺の変」だが、記者の〈透視眼〉は史実を超え、今にも通じる政治戦略の内実が見えてくる。結局は「その後」が大切なのだ。(敬称略)
日本史上最大のクーデター
最終回は1時間のワイド版。まず18時からのBSで見て、20時からのデジタル放送と2回見た。録画はしない。後でも見られるため集中力を欠くからだ。
天下統一目前の織田信長が討ち取られる「本能寺の変」は、戦国最大の謀反、いや日本史上最大のクーデターだ。天正10(1582)年6月2日早朝に重臣の一人、明智光秀が謀反を起こした。だが、真の理由はいまだに分かっていない。
その数日前の5月28日に、武運を祈り光秀ゆかりの京都・愛宕山神社で詠んだ〈ときは今 あめが下知る 五月哉〉。ここに全てが要約されているのは間違いない。
当時の光秀の立場は瀬戸際に立たされていた。徳川家康の饗応役を途中解任、羽柴秀吉の配下に入り毛利攻めの応援に駆り出される直前。加えて四国政策を巡る信長との対立。あまりに理不尽な信長への逆心を抱いても不思議ではない。
「ときは今」「であれば、是非もなし」
大河「麒麟がくる」最終回では信長に足利義昭暗殺を迫られ、光秀が苦悩する。将軍を頂点とした武家社会の秩序回復を願う光秀にとっては承服できない命令だった。
先の連歌の〈ときは今 あめが下知る 五月哉〉は意味深だ。教養人かつ京都で朝廷、公家達とも親しい光秀だ。歌に様々なかけことば、意味合いを持たせたに違いない。まずは〈ときは今〉の〈とき〉は出自の名門の土岐家の復興と絡め〈時は今〉と決断を示した。〈あめが下知る〉は梅雨時の風情に加え〈あめ=天〉で〈天下〉となり、信長を倒し天下を取る。
さて「本能寺の変」クライマックスの名台詞が二つ。番組では光秀が毛利攻めとは軍勢の方角を変え「わが敵は本能寺にある。その名は織田信長という」と、信長討伐を明確にする。そして謀反と分かった信長の絶句。「そうか十兵衛(光秀)か。であれば、是非もなし」と覚悟を決める。
多勢に無勢。信長、すこし離れた二条新御所にいた長男・信忠ともに自害に追い込まれた。ただ光秀にとってやっかいなことが起きる。猛火で焼け落ち信長の遺体が確認できなかった。後に「信長は死なず逃げ切った」などの噂の元になる。最後の詰めが甘いのだ。
「明日」見えない光秀、見えていた秀吉
これほどの歴史的事件を起こしながら、結局「三日天下」で終わったクーデター。問題は「本能寺の変」それから。光秀にその後の政権構想はあったのかははっきりしない。帝、将軍の支持も得ながら頼りにしていた娘たまの嫁ぎ先・細川忠興らとの合議制を考えていたくらいだ。
一方で次の天下人となる秀吉は違った。毛利との和睦後、電光石火の〈中国大返し〉で引き返す。秀吉には「主君の仇を討つ」という大義名分もあった。情報戦も秀吉が秀でていた。あるだけの金銭を使い軍勢を増やし信長存命の偽情報も織り交ぜながら、謀反人を討つ熱量は大きさを増し、6月13日の山崎の合戦で大勝する。
「本能寺の変」で、米マル経学者ポール・スィージーの名著『革命後の社会』を思い出す。勢いで革命をしても、その後の青写真にないために、かえってもっと弾圧的な社会が出来上がる。目の前の「今日」に追われ「明日」が見えていなかった光秀、見えていた秀吉。その後の秀吉は信長の政策を受け継ぐ。愚策とされる朝鮮出兵にしても、海外進出を狙っていた信長も同様の政策を取っただろう。天下への「二つの道」。一方は栄華、もう片方は歴史の汚名への道と大きく異なった。
数奇な歴史の巡り合わせ
光秀は謎が多い。いつも勝者、支配者が歴史を〈上書き〉して改変される。謀反人・光秀は典型だろう。だが、最近の研究や調査で新たな側面にも光が当たる。築城の名人で連歌の名手の文化人。さらに外科や薬剤調合など医術にも優れた才能を持つ。
「本能寺の変」を主導した重臣・斎藤利三は磔にされるが、その遺体を取り返し丁重に葬ったのが、巨匠・海北友松だ。傑作「雲龍図」をはじめ友松の秀作を何度か見たが、友思いの絵師は武勇の人でもあった。利三の娘は生き延び、後に徳川家光の乳母・春日局となり権勢をふるう。光秀は妻・熙子(ひろこ)と仲むつまじい。夫のために自ら黒髪を売り工面した。100年後、これを題材に〈月さびよ明智が妻の咄せむ〉と芭蕉が詠むほどだった。
現代政治と「本能寺の変」
政治家は歴史小説、特に大河ドラマが好きだ。自分と重ね合わせて見るからだろう。さて現代政治と「本能寺の変」の関わりをどう見るか。
28年前の1993年の非自民連立政権。この時の首相、熊本藩主の末裔・細川護煕の1字は光秀の妻から取ったのではないか。そう考えれば、光秀の〈魂〉は秀吉から天下を奪った徳川家、現代政治と生き続けた。
前首相の安倍晋三は長州藩・毛利藩と絡む。そして記者の〈透視眼〉で現政権をのぞく。二階派と組み政権奪取した菅義偉だが、何とも「明日」の青写真、大きな未来戦略が見えない。菅は昨晩の「本能寺の変」と光秀の末路をどう見ただろうか。
(K)
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