(218)自宅が自宅でなくなる...【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年2月12日
「昭和メンタリティ」を持つ日本の多くの勤め人にとって、自宅はあくまでも夜に帰宅し、週末に休養するところであり、平日の昼間に自宅にいると隣近所から胡散臭い目で見られるか、何か病気かと疑われるような場所だったのかもしれません。
農家や自営業者など一部の職業を除き、自宅と職場は別々のものであった…というのが「一億総中流時代」の日本のマジョリティの常識であった訳です。
もしかすると、それが大きく変わるかもしれません。
良くも悪くも在宅勤務、最近ではテレワークの普及により、自宅で仕事をする人が増えている。在宅勤務という言葉は何年も前からメディアには登場していたが、それはあくまでもいわゆるサラリーマンの中では主流ではなかった。
日本の多くのサラリーマンは、大都市圏では通勤電車で、郊外では車で毎日職場に通う「通勤」という行為を延々と継続してきた。朝、自宅を出て職場で仕事を行い、夕方か夜に自宅に帰る。少し付け加えれば、自宅に帰る前に同僚と軽く一杯やってから帰る。これが当たり前の行動パターンとして長きにわたり継続してきた。
ところが、新型コロナウイルス感染症をきっかけに、それまで在宅勤務とはほぼ縁が無い人々にテレワークという選択肢(あるいは自宅での強制労働?)を与えたのである。
実際、一般サラリーマンの多くが実施しているオフィスワークのかなりの部分がテレワークで代替可能であることが少しずつ判明してきている。巷では「ハンコを押す」ためだけに出社することの是非などが唱えられ、国家的政策として「押印の廃止」までが導入されるようになった。
さらに、テレワーク推進派と「やはり仕事は対面がベスト」派とは、社会の様々な場面で微妙な緊張感を醸し出しているようだ。年配者と若者という単純な構図から、業界や職種、あるいはPCやスマホ、はてはwi-fiのアクセスの容易性などがよく議論されている。
だが、筆者はむしろ「3LDK」問題が問題の核心ではないかと考えている。日本の多くの家庭、とくに子育て中の家庭において、「ご主人」には専用の居場所が無い。標準的な「3LDK」マンションに親子で済めば、平日昼間、夫婦共稼ぎの2人が顔を突き合わせてキッチン・テーブルで仕事をすることになりかねない。日本の家庭というか、多くの家屋は自宅で仕事をするようにはデザインされていないからだ。
テレワークが盛んになるにつれ、SNSにはレンタル・オフィスや、家屋のリノベーション、あるいはオフィス用家具のリース広告が頻繁に登場するようになった。これは極めて自然な流れである。
テレワークが増えることにより、自宅におけるオフィス空間確保に誰もが悩むからだ。その結果、改装需要やオフィス家具の購入・リース、はては新たなデスクや椅子、本棚、パソコンやプリンター、など、全く新しい需要が産まれてくる。
コロナ不況で困る業界や人がいる一方で、一時期のマスクほどではないが、オフィスにおけるアクリル製の衝立なども含め、様々な新しいマーケットが急速に出てきている。目端の効く方は、こういうところでメイク・マネーをするのであろう。
そして、最後は自宅に完全なオフィス空間が登場することになる。そういえば、15年ほど前に米国から帰宅して仙台に移った際、家でも仕事ができるようにと居間のコーナーに専用スペースを作ろうとしたところ、子供から「家庭をオフィスにするな!」と言われたことがある。商人の家庭で育った筆者には自宅と職場は混然一体のものであったが、勤め人の子供として育った我が家の子供達は家庭とオフィスは別のものと認識していたのであろう。その子供達も今では週に何度かテレワークを行っているようだ。
* *
先日、仙台駅の構内で見慣れぬボックス(昭和時代の公衆電話ボックスのようなもの)があるなと思ったら「15分、数百円」で利用可能な仕事ルームでした。2つのうち1つは使用中でしたので、どなたかが中で仕事をしていたのでしょう。
テレワークが進むことにより、自宅の概念も大きく変わりそうです。もっとも、農家の皆さんにとっては職住接近、自宅での仕事は当たり前でしょうが、どうも多くのサラリーマンにとってはこれも新しいチャレンジとなりそうです。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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