【浅野純次・読書の楽しみ】第59回2021年2月16日
◎アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書、1078円)
いわゆるガラケーもあと1年でサービスが終わるそうで、通信会社からはスマホへの早めの乗り換えを盛んに勧めてきます。
しかし電車の乗り降りの際や駅の階段までスマホに熱中している人を見ると、麻薬やギャンブル以上の依存症を実感し、スマホの底なし沼だけは遠慮したい気分になります。
実際、本書によるとスティーブ・ジョブズもビル・ゲイツもわが子にスマホを持たせることには非常に慎重だったそうです。アヘンみたいなものだと警戒したからでしょう。
スマホを使っているときはもちろん、スマホが手元にあるだけで(持っていない人よりも)その人の注意力や記憶力が大きく低下する実験結果が、本書では紹介されています。
SNSには脳の報酬中枢をあおる仕組みがある。これが著者のいちばん言いたいことです。人類20万年の歴史を通じて人の脳は自らの命を守るために常に「新しい警戒情報」を最重視してきたとか。
つまりSNSの「新しい情報」でドーパミンというご褒美が脳内を流れるのでSNSから片時も離れられなくなったという。この「人間の進化の見地」からの論旨は極めて説得的で、ある意味では怖い本ですが、子や孫のために貴重な情報が得られる本でもあります。
◎太田尚樹『世紀の愚行』(講談社文庫、814円)
国力でかなうはずもない米国相手の戦争に突き進んでいった日本を、軍部の暴走の一語で片付けるのは単純にすぎるでしょう。無力化した政治、好戦的な外務省、軍部に迎合した新聞、熱狂的な世論、それぞれに責任がありました。
話は昭和7年の満州建国と翌年の国際連盟脱退に始まり、泥沼の日中戦争へと進みますが、ヤマ場は昭和15年の三国同盟と翌年にかけての日米交渉です。稚拙な日本外交が基本にあったとはいえ、「イフ」の連続には複雑な思いを抱かされます。
なぜ日本は戦争を避けられなかったのか、本書はノンフィクション風の生き生きとした著述によって歴史の真実を教えてくれます。それと著者の戦後の調査によって歴史を複眼的に見ることの重要さも伝わってきます。
近衛文麿、松岡洋右、岸信介、野村吉三郎、石原莞爾をはじめ、片やハル国務長官とルーズベルト大統領。スパイも暗躍する中、さまざまな人物の横顔や発言、表情まで、固い歴史書と違い気楽に読み進むことができます。
◎藤田紘一郎『感染力と免疫力』(ワニブックスPLUS新書、968円)
「感染症を制圧する」といった発言がいまだに聞かれますが、本書はどんなに医学が進歩しても感染症が制圧されることはない、新型コロナウイルスは身近な微生物であり、日本人には脅威にならないと断言します。
大事なのは感染したときの免疫力であり、判断基準は死亡者数なのだとも。そして、BCGの接種が重症化を抑制するので、ワクチンよりもむしろBCGを重視すべきだという注目すべき提言を行っています。
著者はご存知かと思いますが、腸内細菌の著名な専門家です。というわけで、本書でも後半部分では腸の機能を高めることが感染症対策として極めて重要であること、そのためには食事その他、どのようなことを心掛けるべきかが詳しく語られています。
ワクチン接種への期待が高まる中、テレビなどの情報とはまったく別の視点を提供してくれていて、とても参考になりました。一読をお薦めします。
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