54年冷害と日本農業【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第137回2021年2月25日
1954(昭29)年、集団就職列車が初めて走った年、MSA小麦の輸入がはじまった年だったが、この年は冷害の年でもあった。
7月末になっても仙台は毎日どんより曇り、じとじと雨が降り、長袖の服を着ていなければならなかった。まさに「サムサノナツ」だった。これは私が生まれて初めて体験した「やませ」だった。私の生まれた山形(日本海側)にはやませ=偏東風がない(したがってこの年は日本海側は相対的に軽い被害ですんだ)ので体験したことがなかったのである。
この冷害は、稲作にとりわけ山間高冷地に大きな打撃を与えた。しかしそれは新しい動きも作り出した。これを契機に冷害に弱い米麦などの実取り作物をやめ、酪農を導入しようという新しい動きが出てきたのである。1954年はそういう点では日本における本格的酪農の始まりの年でもあったといえよう。
同時に、冷害を契機に保温折衷苗代が急速に普及しはじめた。健苗育成、早撒き早植えで増収と冷害回避を図ろうとしたのである。
しかしこれは、前回述べた次三男・婦女子の労働力流出のもとではきわめて難しい。彼らは日常はいない方が食い扶持減らしでいいのだが、農繁期には必要不可欠の労働力であり、過剰人口ではなかったのである。とりわけ適期の限られている耕起代掻き、田植えは困る。
その解決のために普及したのが耕耘機だった。高価ではあっても背に腹はかえられなかった。しかもこれは畑でも利用できるし、深耕も可能となる。さらに前に述べたように乗用車代わりにもなる。かくして耕運機は急速に普及した。
そして早撒き早植えを基礎とする多肥多收技術が進展するようになり、新しい農薬の導入、それを基礎として化学肥料の多投が進んでいくのだが、それはまた後で述べよう。
ただし、この早撒き早植えは水田二毛作を排除する技術でもあつた。田植が早まれば裏作麦の収穫は困難になるからである。しかし農家はこれを受け入れた。MSA小麦の輸入で麦価は低迷し、麦をつくっても引き合わなくなっていたからである。
一方、米はまだ不足、米価は相対的に高い、裏作麦などはやめて稲作に集中し、米の増収を図った方がずっといい。かくして二毛作をやめ、米一本に集中する。
東北では、冬の水田を麦の緑、菜種の黄色、レンゲの赤の裏作で彩ろうとした三色運動は壊滅した。54年冷害時の裏作田の稻の被害がきわめて大きかったからなおのことだった。そして米に集中するようになった。増収にさらに取り組み、同時に畑や原野の開田を進めて米単作化の道を歩み始め、やがて米の過剰問題まで引き起こすようになる、54年はその起点の年にもなったのであった。
重要な記事
最新の記事
-
(393)2100年の世界【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年7月19日
-
【'24新組合長に聞く】JA鹿児島きもつき(鹿児島) 中野正治組合長 「10年ビジョン」へ挑戦(5/30就任)2024年7月19日
-
冷蔵庫が故障で反省【消費者の目・花ちゃん】2024年7月19日
-
農業用ドローン「Nile-JZ」背の高いとうもろこしへの防除も可能に ナイルワークス2024年7月19日
-
全国道の駅グランプリ2024 1位は宮城県「あ・ら・伊達な道の駅」が獲得 じゃらん2024年7月19日
-
泉大津市と旭川市が農業連携 全国初「オーガニックビレッジ宣言」2024年7月19日
-
生産者と施工会社をつなぐプラットフォーム「MEGADERU」リリース タカミヤ2024年7月19日
-
水稲の葉が対象のDNA検査 期間限定特別価格で提供 ビジョンバイオ2024年7月19日
-
肩掛けせず押すだけで草刈り「キャリー式草刈機」販売開始 工進2024年7月19日
-
サラダクラブ三原工場 太陽光パネルの稼働を開始2024年7月19日
-
「産直アウル」旬の桃特集 生産者が丹精込めて育てた桃が勢揃い2024年7月19日
-
「国産ももフェア」直営飲食7店舗で25日から開催 JA全農2024年7月19日
-
「くまもと夏野菜フェア」熊本・博多の直営飲食店舗で開催 JA全農2024年7月19日
-
【現地ルポ】福岡・JAみなみ筑後(1)地域住民とともに資源循環 生ごみで発電、液肥化2024年7月18日
-
【現地ルポ】福岡・JAみなみ筑後(2)大坪康志組合長に聞く 「農業元気に」モットー2024年7月18日
-
【注意報】野菜・花き類にオオタバコガ 栽培地域全域で多発のおそれ 既に食害被害の作物も 群馬県2024年7月18日
-
【注意報】過去10年間で最多誘殺 水稲の斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 山口県2024年7月18日
-
【注意報】平年の4倍 水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年7月18日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「財務省経済産業局農業課」て何?2024年7月18日
-
1970年代の農村社会の異質化の進展と農業【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第299回2024年7月18日