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(220)エントリー・シート(ES)と顧客【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年2月26日

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就職活動のことを「就活」と言い、履歴書や志望動機を書いたモノをエントリー・シート(ES)と呼ぶようになったのはいつ頃からでしょうか。筆者の時代(1980年代半ば)には説明会にはハガキで申込をしたくらいと記憶しています。現在の職場に来た15年前には既にこの形式が各社で実行されていましたが、同僚教員の中には「エントリー・シートって何?」という者が確かに何人か存在したため、当時が過渡期であったのかもしれません。強制ではありませんが、今ではゼミ生の「エントリー・シート」の添削も大学の学生指導の一環です。

「履歴書や志望動機の書き方などを大学で教える」などと言うと、筆者より上の世代からは疑問と怒りの声が噴出するかもしれない。だが、日本の多くの大学では既にキャリア教育の名前のもと、様々な就職活動に対する指導が行われている。

キャリア教育とは自分の人生を考えることである。振り返れば40年前、自分の将来のことなど、ほとんど考えたことは無かった。正直に言えば、何とか海外に行きたい、外国語を使えるようになりたい、そして海外の異性と仲良くしたい...くらいを常に考えていたような記憶しかない。

その点では、今の学生は大変である。運悪く、このコラムを目にした方は、以下の質問に真面目に答えてみて頂きたい。字数は全て〇字以内である。

1. 自分が学生時代に最も力をいれたことは何か(400字)

2. 自己PR(400字)

3. あなたが今、最も関心があることは何か(200~300字)

4. あなたが経験した最もつらかったことは何か、それをどう克服したか(400字)

5. あなたが企業を選択する上で、最も重視する事は何か(100字)

6. 志望理由は何か(300字)

7. 入社後に挑戦したいことは何か(200字)

8. あなたが好きなことや好きなものを1つ選び、写真を添えて説明せよ(400字)

世の中の偉そうなお父さんやお母さんに問いたい。自分達が就職活動をした時に、これらの事を全て事前に準備しましたか? 筆者の答えはもちろんNoだが、時代はもはやこうなっている。現在の大学生はこうした質問に無理してでも応えなければ就職どころか面接すらしてもらえない状況に追い込まれている。実は、筆者はこれと似たようなことを社会人時代、25年以上前にも経験している。米国のビジネス・スクールの受験の時だ。この時、全く同じような質問が10以上登場し、この準備に多くの時間を費やした。1990年代前半の米国ではすでにこれが広まっていたが、日本ではまだまだ遥か彼方、一部の人の話の時代である。

さて、文章というのは推敲すればするほど洗練されていく。はじめは何を言っているのがわからないような文章が、他者による厳しい批判を数回受け、練りなおされると同じ字数でも見違えるようにコンパクトかつシャープな内容になる。

かつては、紙の履歴書に手書きで書いた内容(今でも経歴などは同じらしい)が、今では多くがウェブサイトへの入力である。10数種類の異なる文字タイプ(フォント)が使えるというだけの理由でF社のワープロを買い求めたのが太古の昔のようだ。

だが、文字数限定の画面入力文章が主流になると、学生からは段落(パラグラフ)という概念が消失するようだ。ベタ打ちのような文章や、段落の最初は1文字下げるという筆者らの世代には当然のことが当然でなくなる。

マーケティングでは「顧客のニーズ」の重要性がよく言われるが、締め切り直前に必死でエントリー・シートを書く学生には、誰が顧客かが理解できないことが多い。企業にとって自社製品を買う学生は顧客だが学生の多くは自分が顧客だと思い続けている。実は応募段階では採用の権限を持つ人事こそが顧客であり、その相手に読んでもらい、納得してもらわなくてはならない。この段階ではあくまで企業に選択権があるからだ。

理論でマーケティングを学んでも、実際に書いたエントリー・シートが自分の強い思い込みだけの場合、それはプロダクト・アウトのエントリー・シートに過ぎない。それを横から少しだけアドバイスし、マーケット・インの形に転換させるのも、最近は大学教員やキャリア指導部門の仕事の一部になった。良くも悪くもこれが現実である。

こんなもので一人ひとりの学生の人間性など評価できるはずはないのですが、それでも選考過程が求める以上、目の前のハードルを超えなければ先はありません。これではいけないと思いつつ、不本意な流れに従わざるを得ない状況は生活の様々な局面で直面します。とりあえず、全国の就活生の皆さん、是非とも頑張って下さい。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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