(222)海外へのコメ「営業」を!【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年3月12日
このコラムでは時々、世界全体から見たコメ貿易の話を取り上げています。さて、先般、米国農務省が発表した2030年までの長期見通しによると、現在年間4400万トン程度の世界のコメ貿易数量が10年後には5329万トン、約900万トン増と大きく伸びることが示されています。その内訳をあらためて見てみましょう。
世界のコメ貿易市場が今後も拡大見込みであることはこのコラムでも何度か指摘してきた(No.182、183、185など)。また、コメの生産・輸出を頑張る多くの関係者がいることも良く知られている。
1990年代初め、ガット・ウルグアイ・ラウンド(UR)交渉が激しかった頃、世界のコメ貿易数量は現在の半分程度ではなかったか。筆者が前職で仕事を始めた1984年当時はさらに少なかった。コメは、国際貿易市場の規模が小さく、そのマーケットは底が浅いため、トウモロコシや大豆、小麦と異なり国際貿易には向かないだけでなく、日本のコメは高い...という教科書通りの主張が多くの関係者から出されていた時代である。
何と様変わりしたことか。現在のコメは年間4400万トンの貿易商品であり、2020/21年最大のコメ輸出国はインドの1250万トンである。インドは日本のコメの全生産量より多い数量を輸出し(生産量は1億2千万トンで世界第2位、精米ベース)、タイは日本の全生産量に匹敵する数量を輸出している。
ところで、毎年2月に発表される米国農務省の長期見通しは、前年秋の状況をベースに試算しているため、直近の数字とは異なることが多い。例えば、2021年3月に発表された最新の需給見通しでは、インドのコメ輸出数量は1550万トンと、ヴェトナムの640万トン、タイの610万トンを大きく引き離している。先の1250万トンとはかなり異なるが、長期見通しが出された時期以降の様々な環境変化や、推定方法の違いを考慮すればこれはそれほど問題とはならない。
問題は、恐らく日本人の多くは自国の食料自給率が低いことは知っていても、世界で最もコメを輸出している国がインドであることを実は認識していないかもしれない点である。日本では普通にコメがあるため、外の世界がどうなっているかについて関心を持たなくても、とりあえず日々の生活には差しさわりがない。コメの種類が違うとか、調理方法や食べ方が云々というのは、選択肢がある場合の話である。
長期にわたりコメと無縁の生活をして、コメなら何でも良いから食べたいという飢餓にも似た経験を持つ人はもはや少数かもしれないが、途上国での生活経験者の中には同様の経験を持つ人が少なからずいるであろう。そんな時は中華料理店を何とか見つけ出し、どんなに遠くても行ったものだ。
さて、話を長期見通しに戻せば、2030/31年には世界のコメ輸出数量は5329万トンに拡大する見込みのようだ。下の表を見てわかることは少なくとも2つある。
コメの輸出数量見通し(単位:100万トン)第1は、約900万トンの輸出増はタイ・中国・インド・ミャンマーの4か国で751万トンと増加数量全体の84%を占めている。その中でもタイの330万トンと、中国の190万トンが大きい。今後、この4か国は熾烈な輸出競争を繰り広げていくであろう。
第2に、少ない方を見れば、ヴェトナムや米国が10万トン、アルゼンチンが6万トンであり、日本は「その他諸国」の合計10万トンの中に含まれる。ただし、それは6万トン未満である。それ以上であれば国名が登場するはずだからだ。
さて、新型コロナウイルス感染症の影響が世界中に及ぶ中で、農業現場でも苦しい状況が継続していることは多くの人が理解している。国内の生産や流通をしっかりと守ることが重要であることは百も承知の上で、あえて言うが、この長期見通しでは、米国が「10年先も日本は世界のコメ市場の主要なプレーヤーではない」と見ていることを数字で示していると理解して良いであろう。時に数字は言葉以上に主張を露わにする。
取扱数量が大きければ良いというものではないが、10年間で900万トンもマーケットが増加するのであれば、少なくともその1割程度は獲得するくらいの気概と、その実現のための現実的なプランの構築が欲しい。
* *
こんなことを言うと、絵に描いた餅のように実現しない数字だけが一人歩きする可能性があるので誰もが言いたくないのでしょうが、全国でコメを作る農家のためにもそこは本当に頑張ってもらいたいですね。かつての日本産農産物は、品質は良いが国際貿易市場では価格競争力が無いと考えられてきました。しかし、それから随分と時間が経ち、輸入国の経済状態や生活水準も大きく変化しています。高価格・高付加価値の新しいマーケットが出来つつある以上、しっかりと視野にいれて対応してほしいと思います。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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