(223)「協同」「共同」「協働」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年3月19日
私事で恐縮ですが、筆者夫婦の結婚生活は来週で丸31年が過ぎます。気が付いたら…という感じです。長短は別として、ひとつ言えることは、その時々により夫婦2人のパワーバランスが微妙に変化したものの(ほとんどは家内の圧倒的競争優位)、全ては「協同」(「共同」「協働」いずれでもない)作業で行ってきた…、ということです。子供達に言わせると、我々は「究極の役割分担夫婦」のようです。
言葉を巧みに用いて、その時々の時世や気持ちを表現する手法は昔から様々なところで行われてきた。1つの言葉に2つ以上の意味を持たせることを修辞法の世界では掛詞(かけことば)と呼び、和歌や俳句など、日本では古くから用いられてきた。これを雅やかで風流と見るか、駄洒落と見るかはともかく、日本語の特性を活かした非常に興味深い「技術」でもある。
このコラムを連載している媒体は「農業協同組合新聞」【電子版】である。読者に名称を間違う人はいないと思うが、世の中は急速に変化している。
調べてみると1992年4月から、当時、日本企業の間で流行ったCI活動の一環で「農協」をJAと呼ぶようになったようだ。ロゴも昔の「農協マーク」から緑の「JA」となり、農協職員はJA職員に衣替えした。筆者個人は古い「農協マーク」の「協」の中にある3つの「力」の文字のうち、左下の「力」が豚の尻尾になっているのに少なからぬ愛着を感じていたものだ。
「農協」が「JA」になったことは、時代的には昭和が「農協」、平成は「JA」と理解しても良いかもしれない。平成元年生まれの子供達が既に立派なパパやママになっているし、彼らの子供達の多くが学齢期になっている。
教育現場では、数年前から「JA」の正式名称を知らない世代が登場しつつある。知的レベルの優劣ではない。実際、町を歩いていても「JA〇〇」という看板は各所で見るが、その正式名称がどこにあるかわからない建物も多く、まともに見たことがない世代がすでに大学生以上になってきているということだ。
この結果、例えば「JA」の内容を伝える授業の場合、最初は「JAの正式名称を知っているか、JAは何の略?」から始めないといけない。次の段階は、その正式名称を漢字で書けるかどうか、である。数年前の実話だが、書かせてみたら「共同組合」「協同組合」「協働組合」の3つが登場した。流石に正解が大半であったが、違いを明確に話せる学生はほとんどいない。そもそも大人でも「共同」「協同」「協働」の違いを意識して区別できる人は少ないのではないか。そこで明確にしておきたい。
「共同」とは、「一緒に何かをすること」である。例えば、物事や施設などで複数の人間が一緒に作業や使用することである。やることはバラバラでも同じ施設を使用するから「共同施設」になる。大学に「共同研究」はあるが「協同研究」や「協働研究」などとは言わない。「共同研究」は複数の研究者が集って行う研究であり、厳密に言えばそこに協力は必要ない。各々の専門領域でベストを尽くせば十分なことになる。
これに対し、「協同」とは「協力」という言葉に代表されるように、「一緒に力を合わせること」という意味あいが強い。日本の近現代史、その中でも農業と農協の歴史を読めば、なぜ農家が「力をあわせる」ことが必要であったかがわかると思う。何かを「一緒にやる・使う」ことと「力を合わせること」は似て異なる。清掃を別にすれば、「共同トイレ」は力を合わせて使うものではないことからもわかるであろう。
最後に「協働」だが、この最もわかりやすい説明は「同じ目的のために、力を合わせて働くこと」である。昭和の時代の多くの夫婦のように、わが家は2人で外と内を分担してきた。「一緒に力を合わせてきた」ため「協同」はしてきたが、2人が外で働いていた訳ではないため「協働」ではない。だが、夫婦2人で働く令和の多くの若い夫婦はまさに「協働」していることになる。
さて、ビジネスで言えば、近年流行りの「提携」「連携」「アライアンス」、これは「共同」「協同」「協働」のいずれになるか、一度、考えてみると面白い。
* *
テレワークが普及するにつれ、SNSや街中でも「共同オフィス」のような広告が目立つようになりました。世の中には外見が似ていても実は中身が違うモノや仕組みが氾濫しています。しっかりと違いを見抜き、対応できるようになりたいものです。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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