コメ先物市場を活用してメリットがあったというJA【熊野孝文・米マーケット情報】2021年3月23日
「結果的にコメ先物市場を活用して生産者の手取りのアップになりました」。17日に新潟市で開催されたコメ先物セミナーで実践事例を講演した新潟県内のJAの販売担当課長がそう述べた。JAグループはこれまで先物市場には反対もしくは慎重姿勢のところが多かったが、実際に先物市場を活用したJAが勇気をもってこうした実践事例を公にしたことでコメ先物市場に対する見方も大きく変化してきそうだ。
実践事例を報告したのは新潟県阿賀野市にあるJA北蒲みなみの営農部販売課長。概要は(1)阿賀野市は水田単作地帯で6500haの水田面積がある。JAの集荷数量は約17万俵で、この内主食用米は14万5000俵、(2)コメの販売額は24億6000万円で、全農委託が2割で8割は卸に直接販売。卸への直接販売は平成17年から本格化。(3)先物取引活用へのきっかけは平成29年3月に新潟市でコメ先物セミナーがあり、部長と一緒に参加、その後、取引所や取引員が当農協へ何度か訪問、検討過程で「現物の販売手法の一つとして使えるのではないか」「今後先物市場の有利性が増してくるのではないか」と考え口座を開設した。(4)利用方法の考え方としては卸への直売分が万が一余った場合、先物市場で現物を渡す。それと毎年4月に農家保有米の集荷を行っており、この分の販売先。また、取引所の指定倉庫が近くにあり自農協で運ぶことが出来たことにもある。
(5)29年10月に一年先の30年10月限の価格は1万5700円になっており、この価格であればメリットがあると判断、先物市場へ売り繋いだ。30年産は価格が高騰したこともあって1万9300円と18900円でも売り繋ぎ、結果的に農家手取りのアップにつながった。(6)最大のメリットは売り先を探さなくて良いこと先行きの価格が分かること。
販売課長の話で会場が涌いたのは、新潟県内には23JAあるが、これまでどこの農協がコメ先物取引を行っているのか分からなかった。今回、取引所の要請で講演を引き受けることになり、そこで当JAの名前が出て、各方面から反響がありプレッシャーもあった。役員と相談、ドタキャンせずにこの場に立っていると述べたとき。この課長の思いは良く分かる。平成23年にコメの試験上場が始まった時、著者も取引員主催のセミナーで各地に出向き講演したが、産地の中には公の機関でさえ会場が借りられなかったほか、産地に取引所が受渡しのための指定倉庫になってもらうべく8社に要請したが全て断られたという事もあった。そのことを思えば10年経てJAの担当者が実践例を喋れるようになったことは大きな変化であると言える。
なぜこうした大きな変化が起きたのか? これは偶然ではない。まさに今年コメは大転換し始めたからに他ならない。国が国家戦略として国産農林水産物や食品の輸出拡大を柱に据えたが、この目標を達成するために「マーケットイン」の発想で取り組むと明言している。マーケットインは海外だけと言う話にはならない。当然国内も同じである。コメも重点項目に入っているのでマーケットインの発想で取り組まなくてはならない。これまでのようにコメが余って困ったので国が何とかしてくれるという発想は通用しない。マーケットの中でも一番情報を発信、かつ優れた取引機能を持っているのが先物市場である。そのことは世界中で多くの商品が先物市場で取引され、すさまじい勢いで拡大、取引高は京と言う単位に達している。その原点が堂島である。
その堂島が4月に株式会社組織に生まれ変わる。国内最大の証券会社も株主に名を連ね20億円の資本金でスタートする。当業者の間で関心が高いのが、新堂島が「現物市場」を作る計画を持っていること。堂島のプランでは現物市場では全国各地の産地銘柄米を毎日取引、その成約価格を公表するとともに成約した価格を指数化、それを先物市場に上場する手法を練っている。これだけでは十分ではない。現物市場は当業者(生産者、農協、集荷業者流通業者、実需)が取引する場なので、使い勝手が良くなるようにするには先渡し条件での取引が出来るようにしなくてはならない。かつ倉荷証券や荷渡し指図書での売買も可能にして、より市場流動性を増すようにする必要がある。さらに単に証券での売買だけではなく、
画像取引データをQRコードで読み取れるようにデジタル化することによって流通コストが軽減され、簡単にヘッジできるようになるため飛躍的に取引量が増大する。そうした現物市場が出来ることを期待したい。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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