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民、信無くば立たすまじ【小松泰信・地方の眼力】2021年3月24日

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3月24日7時台のNHK「おはよう日本」は、「食料価格上昇 広がる波紋」というタイトルで、砂糖、大豆、トウモロコシの価格上昇とその影響を伝えた。

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高騰する砂糖、大豆、トウモロコシの国際取引価格

まずは砂糖。国際的先物取引価格が前年同時期と比べて約35%上昇。東京都内の老舗飴店では、4月より砂糖の仕入れ価格は1キロ5円上がるとのこと。コロナ禍で売上げが大きく減る中での砂糖の値上げに、「少しでも上がるのはもう勘弁してもらいたい」とは、店主の切実な声。

原因は主要生産国でのサトウキビ生産の落ち込み。主要生産国のひとつであるタイでは、干ばつによる水不足により、サトウキビからの転作が進む。「干ばつに強いほかの作物があるので、この地域のサトウキビ畑は少なくなっている」とは農家の声。現地の砂糖メーカーも原料の確保がままならず、生産量は不作だった前年を約10%下回る見通し。「われわれの工場は経営が苦しくなり何もなくなってしまう」と、窮状を語るのは経営幹部。

続いて大豆とトウモロコシ。国際的先物取引価格が前年同時期と比べて大豆は約70%、トウモロコシは45%、それぞれ上昇。その背景のひとつとして、中国における食肉需要の高まりと、それに伴う飼料用穀物の輸入が大幅に増加していることをあげる。

大豆やトウモロコシの国際価格の上昇は、4月から食料油の値上げとしてわが国の家計に影響を及ぼすことになる。

柴田明夫氏(資源・食糧問題研究所代表)は、天候不順や中国での需要増加、そして海上運賃の値上がりなどによって、これらの価格上昇がわが国に及ぼす影響は、大きくかつ長期化する可能性を指摘する。

ちなみに、「2019年度食料・農業・農村白書」に基づけば、2018年度の1人1日当たりの供給熱量は2443kcal。油脂類はその14.7%を占め、米、畜産物に続いている。にもかかわらず、自給率はわずか3%。油脂類の自給率を高めない限り、わが国の食料自給率の向上は極めて困難である。

思慮浅き薄っぺらなスカ話

このような状況であるにもかかわらず、菅首相に危機感は乏しい。

第88回自由民主党大会(3月21日開催)における総裁演説で菅氏は、「地方を大切にしたい、元気にしたい、田舎で育った私の中には地方への熱い思いが脈々と流れています」と、いつものように地方出身者であることを強調する。そして、「私は日本の素晴らしい農林水産物の輸出を大きく伸ばすことに全力を尽くしたいと思っています。また、感染収束後の外国人観光客に備え、全国の地方に眠る豊富な資源をさらに磨き上げていきます」と、語っている。

相も変わらず、輸出とインバウンド。国民の生命に関わる医療や食料などは可能な限り自給を目指さねばならないことや、外国人観光客依存の限界や問題点といった、コロナ禍があぶり出して我々に教えてくれたことを学習した形跡なし。収束した暁には、コロナ禍以前にしれーっと戻ることしか頭にない。いずれにしましても、思慮浅き薄っぺらなスカ話。

家族経営の底力

コロナ禍の影響をまともに受け、呻吟(しんぎん)しながらも、あるべき姿を冷静に見つめた人の発言は、思慮深く重厚である。

熊本県南阿蘇村で農園などを営みながら、大学教授や県教育委員を務める木之内均氏(きのうち・ひとし、木之内農園会長)は、日本農業新聞(3月22日付)で、「それなりのリスクヘッジはしているつもりであった。しかし、私はコロナで自らの農園もこんなにダメージを受けるとは予想もしていなかった」と、正直に語っている。「5年前の熊本地震の時も多くのボランティアの方々や行政支援のおかげでなんとか立て直し」た経営者の言葉である。

「私の農園も6次化にはいち早く取り組んで法人化につなげ、規模拡大してきたことで安定させてきた。ただ、今回ばかりはこのことが裏目に出た。観光農園は緊急事態宣言により直接影響を受けたと同時に、近年インバウンド(訪日外国人)の獲得を中心に営業戦略を組んでいたことが全く止まってしまったのだ」とのこと。

そこから、「6次化や大規模化は担い手不足と高齢化に悩む日本農業としては決して間違った方向ではないと感じるが、中山間地のような条件不利地域で小規模でも必死に努力を続ける家族経営も、この変化の速い想定外のことが連発する時代の中では重要であると改めて考えさせられた気がする」と、家族経営の底力に言及している。

今の政治に「信」ありや

朝日新聞(3月11日付)は、2065年の無料開放が法律で定められている高速道路の料金制度について、国土交通省が10日に、永久的に料金を徴収する制度の本格的な検討を始めたことを伝えた。

「12年の中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故の後、建設当初は想定していなかった大規模な修繕が各所で必要であることが判明。このため、国は14年、日本道路公団が民営化された05年時点では50年を予定していた無料開放の時期を、15年間延長することを決めた。その後、全国の道路点検の結果、将来にわたって巨額の維持管理費が必要とわかった。将来の自動運転社会に対応するため、道路の機能を向上させるためのお金も必要だとする指摘も出ていた」ことから、「永久有料化の議論に踏み込むべきだと判断した」とのこと。

この動きに対して、「『許せない』と心の中で叫んだ」と、同紙(3月22日付)に読者の声を寄せているのは吉田豊氏(愛知県)。

「国内初の高速道路、名神高速道路が建設される時、実家の農地も買収された。まだ農業が主要な産業の一つであった60年前のことである。祖先から受け継いだ農地を失うことは、生業を失うことであった。村の人みんなが『反対』を掲げた。だが『建設費用償還後は無料化し国民に開放する』との政府の約束に、国策だからと泣く泣く買収に応じた。子どもながらにはっきり覚えている。(中略)土地を売り払った時の農民の気持ちは受け継がれ、今も生き続けている。これでは『何のために犠牲を払ったのか』との思いがつのるばかりだ。『ご都合主義』が通れば、『だましたな』となり、国の政治や政府に対する不信がわいてくる。昔の約束といえど、『約束』は守られなければならない。そう私は思っている」と、約束の遵守を求めている。

政治家が好んで用いる言葉に、孔子の「民、信無くば立たず」という言葉がある。信頼されていない政治家に限って使うから、言葉の価値は下がりっぱなしだが、「政治というものは民(民衆)の信頼なくして成り立つものではない」ことを教えている。

あえて「民」に問いたい。今の政治に「信」ありや。

「地方の眼力」なめんなよ

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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