震災、コロナそして球春【記者 透視眼】2021年4月1日
東日本大震災から10年。「あの日」の傷跡を治し被災地を励ますのに、改めてスポーツの力を感じる。特に国民に一体感を呼び覚ます野球には不思議な力がある。きょう1日はセンバツ決勝。やはりスポーツは元気の源だ。
2年ぶり球児ら甲子園
2週間前、3月19日の開会式で「高校球児のあこがれの舞台である甲子園が戻ってきた」と感動的な選手宣誓をした仙台育英の島貫丞主将はある〈天命〉を感じた。小学1年生だった10年前の「あの日」を思い出していた。通っていた福島市の小学校も激しい揺れに襲われ、避難生活に福島原発事故の厄災が加わる。不安の日々の中で、野球が唯一の〈希望〉だった。
宣誓で島貫はこう続けた。「失った過去を未来に求めて、希望を語り実現する世の中に」と呼びかけ、「2年分の甲子園」と締めくくった。大震災から10年、コロナ禍から1年。度重なる苦難が自分を鍛え明日を向く力を与えてくれる。試合に臨む球児にも、テレビの前で応援する全国民にも、未来への一筋の明かりを灯す。聖地・甲子園はそんな場なのだ。
同じく開会式で日本高野連の八田英二会長は、コロナ禍に絡めギリシャ神話の「パンドラの箱」の逸話を紹介した。世界中で箱からあらゆる災厄が飛び出したようにウイルスが猛威を振るう。それでも箱には「希望」が残っている。「どんな時も希望を胸に目標に向かい挑戦を。挑戦こそは未来を開く原動力だ」と熱球・甲子園への期待を述べた。
被災地・楽天に田中再び〈降臨〉
大震災と野球は切っても切り離せない。特に震源地・宮城を本拠地とするパ球団・楽天はなおさらだ。そのチームにレジェンド・田中将大投手が再び戻った。
大リーグから楽天に復帰した田中は会見で「大震災から10年という年に、チームを選べる立場になった。本気で日本一を取りにいきたい」と意気込みを語る。
思えば、田中の力投と活躍は震災復興の歩みと共にあった。今から8年半前、2013年11月3日、プロ野球・日本シリーズ第7戦。相手は巨人。シーズン24勝無敗のプロ野球記録に輝き、マウンドで雄叫びを上げた田中の勇姿が被災地、いや日本中にどれほどの勇気を与えたか。
楽天日本一となった後、日本記者クラブで講演した星野仙一監督(当時)は「球場全体が異様な雰囲気に包まれ、田中が登場するとそれは最高潮に達した」と明かした。この時は〈むせび泣き〉が四方から聞こえたとも言う。楽天の活躍と田中の力投と被災地の現状と、全てが重なり合い人々は感極まったのだ。
2011年「共に頑張ろう東北」
被災直後の2011年4月、楽天選手会長だった捕手の嶋基宏のスピーチは共感と感動を呼んだ。「見せましょう、野球の底力を。共に頑張ろう、東北。支え合おう、日本」。へたな政治リーダーよりも胸に届いた。この時から日本一を目指した楽天の挑戦は始まっていた。そして10年の時を経て、田中が再び日本のマウンドに立ち、コロナ禍の中で球児らの〈2年分の甲子園〉もきょう決勝を迎えた。
〈令和の怪物〉も津波の苦難
高校時代に163キロを記録した超速球のロッテ・佐々木朗希投手は〈令和の怪物〉と呼ばれる。東北高校(仙台)で甲子園準優勝とノーヒットノーランを記録し、日本プロ野球でも活躍したあの大リーグ・ダルビッシュですら、佐々木の球速と足を大きく上げるファームに「別次元の選手だ」と驚嘆した1人だ。
その佐々木も地元の岩手・陸前高田で被災し父と祖父母を失った。当時小学校3年生。悲しみに暮れたが野球だけが楽しみで、練習に励んだという。2013年の楽天日本一へ田中の力投をテレビで見ていて勇気をもらう。
佐々木が入団したロッテは東北とも関係が深い。一時、本拠地を仙台に置いて日本一になった。楽天、ロッテ、田中、佐々木と運命の〈赤い糸〉で結ばれているのかもしれない。
日本中が感涙「なでしこ」W杯優勝
スポーツの力を改めて実感したのは大震災から4月後。2011年7月の女子サッカー「なでしこ」のドイツでのW杯優勝。決勝の相手・米国には過去24回一度も勝てなかった。だが、試合前に震災の津波の映像のビデオを見て、チームみんなが震え立ち一枚岩となった。主将・澤穂希は試合後「震災もあり、見えない力が背中を押した」とも語っている。復興五輪も兼ね福島から出発した聖火ランナーは、「なでしこ」メンバーからというのも納得である。
希望灯すセンバツ決勝
きょう昼からセンバツ決勝。東海大相模(神奈川)に明豊(大分)が挑む。すがすがしい熱戦を期待したい。先の仙台育英・島貫の宣誓にもあった震災10年、そしてコロナ禍。開いた「パンドラの箱」にも最後に希望が残った。記者の〈透視眼〉でのぞけば、幾多の苦難を乗り越え、明日へと歩み出す希望と挑戦の姿がそこにはある。
(K)
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