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協同組合の原理論【森島 賢・正義派の農政論】2021年4月5日

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新年度が始まった。コロナ禍の真っ只中ではあるが、この機会に、新しい気分で協同組合についての私見を、原理論的に述べてみよう。

農協は、いうまでもなく協同組合である。そして、協同組合は資本主義の経済組織ではないし、社会主義の経済組織でもない。この2つの組織の良いところを生かし、良くないところを捨てた組織である。

そしてそれは、資本主義や社会主義の後に控えている、明るい社会である。農協は、それを先取りした、希望に満ちた組織である。

第1回全農日高同盟大会ポスター第1回全農日高同盟大会ポスター

ポスターを写した右の図は、農業における土地の重要性を示したものである。それは、農業が続くかぎり、いつの時代でも、どんな社会でも、変わらないだろう。

さて、いつの時代でも、どんな社会でも、その基礎にある経済組織の形が、社会体制を決め、政治体制を決める。文化をも決める。

協同組合を経済組織の基礎におく社会は、資本主義社会とも違うし、社会主義社会とも違う社会である。それは、資本主義社会のような、格差の激しい社会でもないし、社会主義社会のような、生産性の低い社会でもない。

そのような、平等で生産性の高い社会が可能か。それは、協同組合を経済組織の基礎におけば、充分に可能である。

いつの時代でも、どんな社会でも、その基礎にある経済組織を形作るものは、生産手段の所有形態である。

資本主義経済は、生産手段を私的に所有する経済だし、社会主義経済は、生産手段を社会が所有する経済である。

そして、生産手段を所有するものが、生産を支配し、生産したものの分配を決める。それが例外のない歴史法則である。所有権とは、排他的で独占的な支配権なのである。

では、資本主義経済と社会主義経済とでは、そこにどんな違いがあるか。

資本主義経済では、生産手段を所有する資本家が、自分の利益を最大にすることを目的にして、生産を支配し、生産したものの分配を決める。他の人たちの分配分を減らして、自分の分配分を増やし、自分の利益だけを大きくすることを恥じない。

そのために激しい競争が行われる。その結果、生産性の高い組織が勝ち残り、生産性の低い組織は淘汰される。そうして、社会が全体として生産性の高い社会になる。だが、その一方で格差を広げるという重大な欠陥がある。

社会主義経済では、生産手段を所有する社会が、生産を支配し、生産したものを分配する権限を持っている。そして、その執行は官僚に委託する。

官僚は執行を委託されただけで、権限を譲られたわけではない。だが、ここに思い違いがあって、官僚支配という反民主的な支配を行い易いことになる。

また官僚は、委託された執行だけに関心を持って、生産性の向上に関心を持たない、という欠陥に陥り易くなる。

これに対して、協同組合経済はどうか。

協同組合では、生産手段を、組合員の全員が平等に出資した資金で買う。だから、生産手段の所有権は、組合員の全員が平等に持っている。それゆえ、生産を支配する権限と、生産したものを分配する権限は、組合員の全員が平等に持っている。

このように、協同組合経済は生産手段の私的所有を認めないという点で資本主義経済とは遠く、社会主義経済に近い。

だが、社会主義経済とも大きく違う点がある。違う点は、協同組合経済は小さな集団を協同組合の基礎単位にしているが、社会主義経済は、国家単位の経済である。

この違いは大きい。社会主義経済は、執行機関である官僚機構が、国民の意思から離れることがある。つまり、民主的統制が効きにくくなる。その結果、反民主的な圧政になりやすく、また、生産性を軽視しがちになる。

これに対して、協同組合経済は単位が小さいから、直接民主主義が貫徹し、民主的統制が効き易い。

もう1つの協同組合経済社会主義経済と大きく違う点は、協同組合経済が組合間の市場競争を取り入れることで、互いに競いあい、生産性を高めあっていることである。社会主義経済にはこれがない。

このように、協同組合経済は、資本主義経済の市場競争を取り入れて、生産性の向上を計り、社会主義経済の平等を取り入れた理想の経済である。

将来の経済構造についての論争について、2つほど指摘しておこう。

その1つは、基本所得保障(ベーシックインカム)についてである。これは、全ての国民に一定額の所得を支給する、というものである。

もう1つは、高所得者に重税をかけるというものである。

この2つとも、平等を目指したものである。この点で社会主義経済と似ている。だが、これらは資本主義経済の生産構造を温存しておいて、分配段階で平等を計る、というものである。

この基本点で、2つは社会主義経済とは似て非なるものである。協同組合経済とも原理的に相容れない。つまり、主観的意図の如何にかかわらず、客観的には資本主義の、蘇生する見込みのない延命策である。

この2つは、ともに生産手段の所有者が分配を決める、という例外のない歴史法則に反している。だから、破綻するのは歴史的必然だろう。このことを指摘しておきたい。

(2021.04.05)

(前回  疫政学のすゝめ

(前々回 薬九層倍を断て


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