50年代も続いた開拓入植の推進【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第144回2021年4月15日
第二次大戦前、前に述べたように、日本の貧しさは狭い国土に多くの人間がいること、つまり人口が過剰なことにあるとして、多くの人々が満州に、ブラジルに開拓移民として農村から送り込まれた。
戦後、アメリカ大陸に移民した人たちを除いてそのほとんどが日本に引き揚げてきた。しかし、職はない。ましてや戦後の混乱期である、しかも国内で生産する食料だけでは食わせてもいけない。外国から買おうにもお金=外貨がない。かくして戦前もいわれていた「過剰人口問題」=食えない人口の問題はさら激化することになった。それをどう解決するか、それが戦後の最大のしかも緊急の課題となった。
そこでまずなされたのが、この「過剰人口」に山林原野を開墾させて食糧を生産し、自らの糧とすると同時に国民に供給させることだった。もう一つ、未開の土地を多く持っているブラジル等の中南米諸国に移民として入植させることだった。
これは戦後早々からなされたのだが、「広大な沃土の待つ北海道へ」、こんな言葉にひかれて多くの人々が明るい希望を胸に、満州移民の引き揚げ者を先頭に北海道や府県の山林原野に入植していった。
この開拓は手を変え、品を変えて1950年代に入っても継続された。敗戦直後の緊急開拓と違ってさまざま手厚い援助がなされるようになっていたが、その後多くの離農者を出していることからわかるようにいかに厳しいものだったかがわかろう。そして高度成長時には離農を推奨し、都市部の労働力として利用される。農業・農村はまさに資本への労働力需給のプールだった。
北海道の山林原野は、戦前からの開拓入植に引き続いて戦後も、鋤や鍬の人力と若干の畜力で切り開かれていった。
このことから、農業は、農民は北海道の自然を破壊したと言われることがある。
たとえば、知床半島に開拓農家が入って開墾し、後にはそこを捨てて出て行ったために自然林はクマザサしか生えない土地となった。原始的な貴重な自然が破壊された。農家は、農業は自然破壊者だというのである。そして、これを回復するために百平方メートル運動でその開拓農家が耕作放棄した土地を購入し、木を植えるのだという。この運動自体には大いに賛成である。しかし農業が、開拓農家が、知床の自然を破壊したと言う人がいると反論せざるを得ない。
開拓農家だってこんなところに入植したくなかった。アイヌの人たちが「シリエトク(大地の行き詰まり、地の涯)」と呼んだという厳しい条件の知床に、好きこのんで開拓しに来たわけではない。戦前のゆがんだ日本資本主義の構造、それが引き起こした植民地獲得戦争、その結果としての戦後の食と職の獲得困難、それへの対策として展開した開拓政策、一種の棄民政策が自然を破壊したのである。
しかもこうしてやむを得ず苦労に苦労を重ねて自然原野を農地に切り開いても、まともな収穫はできない。結局借金をかかえて離農せざるを得なくなる。その結果がクマザサの原野なのである。まさに不毛の開拓だった。それを押しつけた政策にこそ問題があるのであり、農業が、開拓農家が原野化させたわけではないのである。このことを理解して欲しい。などと、道民として過ごした今世紀初頭。知床半島にいくたびに心の中でつぶやいたものだった。
もちろん、こうした苦労のなかでも、大きな成果をあげ、北海道や産地に農業を確立、発展させてきたことは高く評価しなければならないが、その労苦は計り知れないものがあった。。
でも、国内入植はまだよかった、戻ろうとすれば故郷に戻れ、国内の住みたい土地に行ことができた。南米移住はそうはいかなかった。帰りたくとも帰れなかった。
その南米移住が鳴り物いりで政府によって推進されたのである。
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