ゴルフ松山Vと大震災10年【記者 透視眼】2021年4月15日
男子ゴルフ、松山英樹の米マスターズ優勝は、今年に入っての日本人の最大快挙といっていい。その波及効果はスポーツにとどまらない。一方で記者の〈透視眼〉で見れば、もう一つの面、大震災10年の区切りでの松山の執念が見える。
グリーンジャケット
ゴルフで日本男子メジャー初制覇の偉業を達し、松山は勝者に贈られる緑色の「グリーンジャケット」に袖を通した。181センチ、90キロ。欧米の選手に負けない飛距離を誇る。だが真骨頂は1打目よりも、グリーンにオンしてからの正確なパットにある。つまりは堅実さが心情だ。
日本でもなじみのゴルフ界の帝王ジャック・ニクラスは松山の才能を「卓越したパットの精度を持つ青木功とパワーゴルフのジャンボ尾崎将司の良いところを組み合わせた選手だ」と評した。日本を代表する2人の巨人のハイブリッドが松山だ。
東洋人初の快挙
4大メジャーの一つ、東洋人初のマスターズ優勝は一体どれだけすごいのか。例えば女子テニス大坂なおみの4大大会優勝に匹敵する世界的快挙だ。日本人には無理と言われた常識を覆す。優勝賞金207万ドル(約2億2700万円)と終身の大会出場権を得た。これだけでも他スポーツとは桁違いの偉業と分かる。
大会リプレイを見ながらゴルフは心理戦だとつくづく思う。2日かけ18ホールを回るには、浮き沈み、好不調はつきものだ。いかに不調を最低限で抑え好調を続けるか。終わってみれば2位と1打差。結果的には薄氷の勝利だが、松山は大崩れすることなくピンチも最低限ですり抜け、必死で追いすがるライバルらに心を揺らすこともなかった。
10年前の母校で見た「あの日」
ここまで書くとスポーツ紙と見間違えてしまうが、実は松山の物語はゴルフ偉業にとどまらない。愛媛・松山出身。高知・明徳義塾で高校生日本一になり、仙台の東北福祉大学で学生ゴルフの腕を磨く。四国育ちの松山にとって、大きく飛躍した仙台は第二のふるさとだ。
松山メジャー初挑戦は大学2年の10年前の2011年4月。母校のある仙台は東日本大震災に襲われ大きな被害を受けていた。帰国後、すぐに被災地の避難所のボランティアに駆けつけ黙々と牛乳などを配った。それ以来、松山が被災への思いを常に心にとめ世界と戦ってきた。大震災10年と大きな節目の中で栄冠を手にし、被災地へ勇気を与えた。
仙台と愛媛は伊達正宗でつながり
母校・東北福祉大のある仙台と松山の出身地・愛媛は何のつながりもないようだが、仙台藩の始祖・戦国武将の独眼竜正宗、伊達政宗と深い関係がある。愛媛・宇和島藩は正宗の息子・伊達秀宗が起こした歴史を持つ。
400年の時を超え、愛媛出身の松山が仙台に行き、大学でゴルフ大成の礎を築き、大震災10年で凱旋した。歴史の巡り合わせかとも思う。
五輪まで100日、金メダルも視野に
松山の物語はまだまだ続く。14日で東京五輪まで100日。メジャー制覇で世界ランキンキングが上がり、五輪出場の可能性が一挙に高まってきた。実現すれば、女子テニス大坂ナオミと共に、最有力メダル候補の一人となる。五輪内定の白血病から戻ってきた競泳女子の池江璃花子も加わり、今ひとつ盛り上げかける五輪盛り上げへの起爆剤になるのは間違いない。
経済波及効果、食品も是非
それにしても松山Vは経済波及効果も大きい。ゴルフ関連株は一時2割高に。全国紙は全面広告でレクサス、野村証券、求人サイト・インディードなどが松山快挙をたたえた。スポンサーだが、松山人気にあやかろうというわけだろう。
スポーツ選手の活躍とスポンサー活況は表裏一体だ。松山の食品関連のスポンサーはどうなっているのか知らないが、五輪を機に国産農畜産物でもPRしてもらえれば、コロナ禍を吹き飛ばす最大の需要拡大にもつながる。スポーツ選手は健康と体が資本。食べ物にも大いに関心があるはず。
そう言えば、女子ゴルファー原英莉花は全農の国産農畜産物オフィシャルアンバサダー。ゴルフと食は関係が深い。
記者の〈透視眼〉からのぞけば、松山Vと五輪と大震災と国産農畜産物がつながって見える。
(K)
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