【浅野純次・読書の楽しみ】第61回2021年4月16日
◎木下斉『まちづくり幻想』(SB新書、990円)
地方創生とかまちづくりとか言われる割に地方の活性化は絵に描いた餅に終わっている例が多いようです。もどかしく思っていたところにこの本が目に留まりました。
うまくいかないのは「まちづくり幻想」があるからだと著者は喝破します。まちづくりを唱道する地域のリーダーたちが、間違った理念の上に常套的、画一的な意思決定を繰り返していることが問題だというのです。
曰く予算さえあれば成功する、力を合わせてみんなで頑張れば成功する、どこかの地域の成功事例に学ぶことが大事だ、専門家(コンサルタント)こそ頼りになる。こんな錯覚があふれかえっていては、確かに成功はおぼつかないでしょう。
横並び主義、前例主義、事大主義、指示待ち。多くの日本企業をむしばんできた悪しき伝統が地域の隅々にも潜んでいます。
本書の最後に提示される「地域における幻想を振り払うための12のアクション」も説得的です。(1)外注よりも職員を育成せよ、(2)地域に向けても教育投資が必要、(3)役所も稼ぐ仕掛けと新たな目的をつくろう、(4)役所の外に出て自分の顔をもとう、以下、省略しますが、多くの地域に共通する失敗例が多数、紹介されていて大いに参考になるはずです。
◎浜矩子『"スカノミクス"に蝕まれる日本経済』(青春新書、990円)
本紙読者にはおなじみのエコノミストによる辛口政治・経済批評です。前首相についても厳しい批判(アホノミクスと呼んで)を続けていたことは周知のとおりですが、現首相に対してもスカノミクスと名づけて経済政策批判が展開されます。
まず初めに政治姿勢が俎上に上りますが、それは現首相がマキャベリを師と仰ぎ、彼の『君主論』から力の論理を学んで権力掌握を唯一無二の政治目的としているからだと著者は断罪します。
ついで所信表明演説と施政方針演説を詳細に分析して、首相として何をやろうとしているのか、何をやりたくないのか、その本心を整理してみせます。これにより読者は、改めて「首相の真実」を知ることになるでしょう。
続いて目と耳と手の風刺が利いています。現首相においては「見て見ぬふりの目」「聞く耳もたずの耳」「切り捨てる手」で、マキャベリ的には「監視する目」「盗聴する耳」「おびき寄せる手」だとか。そして終章は「真の共助・共生の世界へ」。大事なことです。
◎保阪正康『石橋湛山の65日』(東洋経済新報社、1980円)
石橋湛山といえば7票差で岸信介氏との決選投票を制し首相の座についたにもかかわらず、肺炎になって在任65日で潔く退任したことでも知られています。首相としてほとんど何もできなかったはずなのに、いまだに歴代首相の人気ランキングで上位に顔を出すのはなぜでしょうか。
本書はそのナゾを見事に解き明かしてくれます。石橋湛山の実力は吉田内閣蔵相や鳩山内閣通産相などによって折り紙つきであり、国民生活向上や平和外交などの政策には国民の期待はいやが上にも高まっていました。
戦前はジャーナリスト、戦後は政治家としての石橋湛山の思想と行動をもとに、著者はもし石橋内閣が長期政権となっていたら日本はどうなっていただろうかという「イフ」を読者に抱かせる見事な構成で描いています。
対照的に現下の政治はなぜこれほど劣化したのかと、読者は大いに考えさせられるでしょう。その意味でも意義深い刊行です。
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