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医食同減し銃充実す【小松泰信・地方の眼力】2021年4月21日

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「医食住は生活の基礎」という書き出しのレポートを受け取ったことがある。日本語としては、医は衣でなければならない。しかし、学生の眼には衣服の充実以上に、医療の充実が生活を支えている現実が映っている。確かに「医食同源」との教えもある。

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三度目の正直ですか

政府は4月20日、東京都、大阪府、兵庫県に三度目となる緊急事態宣言を発令する方針を固めた。

瀬戸際、勝負、正念場、そして三度目の緊急。オオカミ少年のごとき笑うに笑えぬ醜態に、三度目の正直を願いつつも、佛の顔も三度までとまなじりを決する。

毎日新聞(4月21日付)は、「大阪府では重症者数が重症病床数を超える危機的状況に陥り、20日、緊急事態宣言の発令要請に至った。府は矢継ぎ早の飲食店対策や病床確保要請で対応を進めたが、後手に回った側面は否めない」とする。

そして「重症者は5日の143人から20日には317人に倍増。年度替わりで新型コロナの患者の治療に当たる医師や看護師らを十分に確保できていない医療機関も多く、13日以降は重症者数が重症病床を上回っている。20日現在、重症者のうち60人は重症病床に移れず、軽症・中等症病床での治療が続いている」ことなどから、20日の府対策本部会議で朝野(ともの)和典・大阪健康安全基盤研究所理事長(感染制御学)は「医療崩壊と言っていい」と指摘し、なりふり構わない府の対応に、ある府幹部は「緊急事態中の緊急事態だ」と嘆いているそうだ。

凄絶かつ哀絶な医療現場の実態

4月17日放送のNHKスペシャル「看護師たちの限界線~密着 新型コロナ集中治療室~」は、東京女子医科大学病院の集中治療室にカメラを据え、看護師たちを捉え続けた。その凄絶(非常にすさまじい様)かつ哀絶(あわれこの上ない様)なコロナ最前線の実態に言葉を失った。

凄絶とは、約1㎏の防護マスクをつけ、防護服で体を覆い、汗だくで働き、休息のいとまもない過酷な勤務実態。

哀絶とは、過酷な勤務実態に見合わぬ報酬(前年の半分ほどの夏の賞与、6割程度の冬の賞与、定期昇給見送り)、襲ってくる無力感、看護師不足の現場を支えるために動員される定年退職者や妊娠中の看護師、心身のバランスを崩し二ヶ月半の休職に入る看護師や自分を責めながら後ろ髪を引かれるような思いで辞めていく看護師の姿。

政治家が医療現場に行く必要はない。邪魔なだけ。この番組を観るだけで不作為の罪を自覚できるはず。普通の神経なら。

ワクチンはまだですか!

毎日新聞(4月20日付)は、同紙と社会調査研究センターが、4月18日に実施した全国世論調査の概要を伝えている。有効回答数は1085件。コロナ関連の質問への回答概要は次の通りである。

(1)菅政権の新型コロナウイルス対策への評価;「評価する」19%、「評価しない」63%

(2)まん延防止等重点措置の効果への期待;「期待する」21%、「期待しない」70%

(3)ワクチン接種の進め方;「遅い」75%、「遅いとは思わない」17%

(4)ワクチン接種が可能となった時の対応;「すぐに接種する」62%、「急がずに様子を見る」33%、「接種しない」4%

小国ニッポンに求められる政策

崩壊しつつあるのは医療の現場だけではないようだ。

日本農業新聞(4月19日付)において、山口二郎氏(法政大教授)は、「深層においては日本の政府が一定の目的のために適切な政策を立案し、責任を持って遂行する能力を失っている」として、「私たちは大国ではなくなりつつあるという現状認識を基に、日本の将来を構想するしかない」との認識を示した。

そして、次のような政策の方向性を提言する。

ひとつには、「目先の金もうけのためにすぐ役立つ技術の開発に資金をつぎ込むのではなく、植物を育てるように根を大事にする政策」。

もうひとつには、「大国でなくても国民が生きていけるように、社会、経済の仕組みを徐々に転換することが必要である。(中略)これからは大国ではない生き方を身に付けることが、国民の安全のために不可欠である。そのためには、食料とエネルギーの自給率を高めることが必要である」ことを指摘し、「脱大国の農業は国民を養う基礎的な食料を供給することを基本的役割とするべきである」と、農政の方向も示唆している。

RCEPから見えるもの

残念ながら、山口氏の提言とは真逆の方向に農政は動いている。

衆院は15日の本会議で、日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の承認案を可決し、参院に送付した。6月16日までの今国会での承認が確実となった。

野上農相は「国内農林水産業に特段の影響はない」と答弁しているが、鈴木宣弘氏(東京大大学院教授)は、日本農業新聞(4月20日付)でRCEPが及ぼす影響の暫定試算を示し、今後の農政のあるべき姿を示唆している。(編集部注:4月15日付、JAcomの鈴木教授コラム「食料・農業問題 本質と裏側」も参照)

(1)日本の国内総生産(GDP)増加率が2.95%と突出し、ASEANなどの「犠牲」の上に利益を得る、「日本一人勝ち」となる。

(2)農業生産の減少額は5600億円強。野菜・果樹の損失が860億円で、農業部門内で最も大きい。

(3)突出して利益が増えるのが自動車分野で、約3兆円の生産額増加。

(4)(2)(3)より、「農業を犠牲にして自動車が利益を得る構造」がRCEPでも「見える化」された。

(5)以上から、企業利益追求のために、国内農家・国民を犠牲にしたり、途上国の人々を苦しめたりする交渉を再考する必要がある。

銃の充実はまっぴらだ

他国を巻き込みながら、自国の農業や食料事情を悪化させるこの国の政策は、医も食も共に衰退させ、医食同「減」を間違いなく引き起こす。今回の「日米共同声明」が、住ならぬ銃の充実をもたらすように。

「地方の眼力」なめんなよ

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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