野党共闘の要諦【小松泰信・地方の眼力】2021年4月28日
4月25日に行われた、参院広島選挙区再選挙と長野選挙区補選、衆院北海道2区補選の3つの選挙で自民党が全敗した。
地元紙社説の論評
広島選挙区では、諸派「結集ひろしま」の宮口治子氏が初当選。
中国新聞(4月26日付)は、ズバリ「カネまみれ選挙がはびこる広島県―。そんな汚名への怒りを有権者が示したと言えよう」の書き出し。大規模買収事件で有罪判決が確定した河井案里氏の当選無効に伴う再選挙だったことから、「金権政治への憤りが広がり、得票の追い風になったのだろう」と分析する。
自民党の候補者は、政治改革を進める覚悟を示し、応援演説の自民党議員らも「問題の議員は離党した。悪い部分は取り除いた」と党刷新を訴えたが、傷ついた党のイメージはなかなか回復できなかった、とのこと。
「県連の反対を押し切って案里氏を立候補させ、積極的に支援したのは当時の党総裁で首相の安倍晋三氏や、官房長官だった菅義偉氏らである。幹部が事件の責任を何も取らないのでは、信頼回復も党改革も進むまい」として、病根の未摘出を指摘する。
さらに、自民党県連に対しても、「違法なカネを受け取った地方議員の居座りを許すのか。金権政治と決別するには、一歩踏み出すことが必要である」と、金権政治一掃の姿勢を強く求めている。
長野選挙区では、新型コロナで急逝した羽田雄一郎氏の実弟である立憲民主党新人の羽田次郎氏が初当選。
信濃毎日新聞(4月26日付)は、同紙の出口調査で、羽田氏に投票した人の約6割が政府のコロナ対策を「評価しない」と回答したことなどから、「野党共闘候補の勝利は、政府のコロナ対策に対する不信と不安の表れだ」と分析する。
野党共闘に関しては、「羽田氏が確約した政策協定を巡って混乱し、一時は国民民主党が推薦を見直す意向を示した」ことから、「政策が異なる野党が与党に立ち向かう方策として、どう共闘するのか。総選挙に向け、課題を整理して解消できるかが問われる」と、課題を提起する。
また投票率が44.40%で、19年参院選よりも9.89ポイント下回ったことから、「民主主義の根幹である選挙で約半数が棄権したのは深刻だ。有権者の関心を高める政治ができているのか、与野党は自問する必要がある」と訴える。
自民党が候補者擁立を見送った北海道2区は、立憲民主党の元議員松木謙公氏が当選。
北海道新聞(4月26日付)は、与党が不戦敗を決めたことから、「有権者に選択肢の提示すらできなかった」ことを嘆き、「しかも、自民党は選挙期間中に、吉川元農水相の汚職事件の贈賄側から現金を受け取った疑いが浮上し、内閣官房参与を辞職した西川公也元農水相を幹事長特別参与として党務に復帰させた。ここでも、まるで反省が見えない。有権者をないがしろにしたような姿勢にはあきれるばかりだ」と憤る。
全国紙社説の論評
「全敗は何より、半年間の政権運営が招いた結果である」とするのは毎日新聞(4月26日付)。
新型コロナウイルス対策については、「対応が再三後手に回り、3回目となる緊急事態宣言の発令に追い込まれた。感染対策の『切り札』と位置づけるワクチンも、海外からの調達に手間取り、国民にいつ行き渡るのか見通せていない」。
日本学術会議の任命拒否問題については、「拒否の理由を説明せず、全く解決していない」。
放送事業会社に勤める菅首相の長男が総務省幹部を接待した問題については、「『長男は別人格』とかわし、真相解明に向けて消極的な態度を貫いた」。
これらから、首相が掲げる「当たり前の政治」の実態は、「国民感覚からかけ離れたもの」で、「この半年間で浮かび上がったのは、国民と向き合わずに、説明に意を尽くさない独善的な首相の政治姿勢」と指弾する。
そして、「衆院解散をちらつかせたり、政権延命を画策したりするような状況ではない」として、「コロナの収束に全力で取り組み、有権者の不安や不信に応える責任」を果たすことを求めている。
読売新聞(4月27日付)は、「(自民党が)政党としての自浄作用が欠如していたのは、極めて残念だ。野党の支持率が低迷するなか、自民党『1強』に安住しているのではないか。有権者の厳しい批判を重く受け止め、信頼回復に努めることが急務」とする。
また羽田氏が、共産党の県組織と「日米同盟に偏った外交の是正」などを盛り込んだ政策協定を結んだことに、国民民主党が反発し、推薦を一時撤回するなど、あつれきが目立ったことに注目する。そして「共産党は連合政権構想を掲げている。各党は、政権選択選挙である衆院選で共闘するのなら、安全保障やエネルギーなどの基本政策をすり合わせることが重要だ」とし、「理念なき野合では、有権者の期待を裏切る結果になることを、改めて肝に銘じてもらいたい」と、野党共闘の課題に言及する。
「長野モデル」の教え
確かに現在の自民党と公明党による政権運営を見ていれば、「理念なき野合」がどれほど有権者の期待を裏切り、不安と不幸に陥れるかがよくわかる。「権力」を得ること、あるいはそこからのおこぼれを頂戴すること、その一点で集まった烏合の衆による政権運営がもたらすのは罪深き政治である。
野党共闘に問われているのは、希望に満ちた未来社会を人々に保証する「国家像」を展望し、短期・中期・長期・超長期という画期において、「譲れる理念」と「譲れぬ理念」を摺り合わせ、画期にふさわしい共通理念と政策を国民に問うことである。
信濃毎日新聞(4月27日付)によれば、記者会見で「告示前に立民、共産、社民3党の県組織などと結んだ政策協定を、国民民主党と連合が問題視した。共闘のもろさが露呈したのではないか」と問われた羽田氏は、「もろさとは思っていない。時間をかけてそれぞれの皆さんと話を深めていければ、より強固なものになる。この枠組みが全国に波及していくのではないか」と語っている。
関係者によれば、政策協定に横やりが入ったとき、一番「ぶれなかった」のが羽田氏本人。そのぶれない姿勢に支えられて、長野県内の野党共闘は、東京方面での小競り合いにはほとんど影響を受けなかったそうである。
ぶれない候補者を軸に、現場主導で政策協定が結ばれて、野党共闘が勝利したこの経験を「長野モデル」と呼ぶならば、このモデルは、野党共闘においても、地方自治の視点が尊重されねばならないことを教えている。
「地方の眼力」なめんなよ
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