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福島と沖縄から学ばぬ国ニッポン【小松泰信・地方の眼力】2021年5月12日

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4月13日、政府は、東電福島第一原発敷地内のタンクに貯蔵されているアルプス処理水(多核種除去設備を含む複数の浄化設備で処理した水)の海洋放出を決めた。この水は、放射性物質トリチウムを含んでいる。

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動かぬ証拠

2015年8月25日付で、東電社長廣瀬直己氏から福島県漁連会長野﨑哲氏に発出された文書には、同年8月11日に当該漁連から出された要望書への回答が記されている。

「漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わない事」という要望への回答を、原文にて記す。

・建屋内の汚染水を多核種除去設備で処理した後に残るトリチウムを含む水については、現在、国(汚染水処理対策委員会トリチウム水タスクフォース)において、その取扱いに係る様々な技術的な選択肢、及び効果等が検証されております。また、トリチウム分離技術の実証試験も実施中です。

・検証等の結果については、漁業者をはじめ、関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします。

反古にされた約束

毎日新聞(2018年8月27日付)によれば、この文書発出から3年後の18年6月、近畿大学などの研究チームがトリチウムを含んだ水を除去する新技術を開発。「今は実験室レベルだが、いずれ福島でのトリチウム水の処分に貢献したい」と意欲を示した。

藁にもすがりつきたいはずの政府も東電も、支援の手を伸ばさず黙殺したことを、東京新聞(4月14日付)が報じている。

研究の中心的役割を担ってきた井原辰彦特別研究員によれば、「さらなる研究のために政府系の補助金を申請した。昨夏の審査で通らなかった」とのこと。さらに、大量のトリチウム水がある現地での試験を東電に打診したが、協力を得られなかったそうだ。

これ以外にも、後ろ向きの姿勢が紹介されている。そして、約束を簡単に反古にする今回の海洋放出。国と東電を信じるな。

ちなみに、農業協同組合新聞(4月20、30日付)も緊急特集などでこの問題に多くの紙面を割いている。

家電なら「四十年」はスクラップ(越谷市の和平さん、東京新聞・5月8日付の時事川柳)

福島の原発事故を契機に、2012年6月に「原子炉等規制法」が改正され、いわゆる「40年ルール」(原発は運転開始から40年で原則廃炉。原子力規制委員会規則で定める基準に適合すれば、20 年を超えない期間延長が可能)ができた。

そして4月28日、運転開始から40年を超えた「老朽原発」である、関西電力美浜原発3号機(美浜町)と高浜原発1、2号機(高浜町)を抱える福井県の杉本知事は、3機の再稼働に同意した。全国初のこと。

再稼働を求める国や関西電力に取っては、願ってもない知事の同意表明。知事は、原発1カ所当たり最大25億円の交付金が提示されたことを評価している。しかし、安全性や避難計画の実効性への懸念は未解消。2023年末までに確定すると約束している、使用済み核燃料を一時保管する中間貯蔵施設の県外候補地は未定。そして、金品受領問題も未解明。

再稼働賛成の読売新聞と産経新聞

読売新聞(4月29日付)の社説は、「原発では部品交換や計画的な補修で機能が維持され、新規制基準に基づく安全対策も導入されている」「米国でも(中略)60年運転が主流になりつつある」「10年間停止したままで、施設の劣化は進んでいない」と、不安解消に健筆を振るい、温室効果ガス削減目標達成を目指し、「原発を積極活用する方針を明確にすべきだ」と、政府の檄を飛ばす。

産経新聞(4月29日付)の社説(主張)も、「40年以上の運転をする原発に対して『老朽』の言葉が冠せられることが多いが、この表現は当たらない」とし、大規模かつ計画的なメンテナンスで「新品に近い状態」と胸を張り、「交換が難しい原子炉圧力容器は鋼材の劣化がないことを厳密に確認した上での運転延長だ」と、お墨付きを与える。

再稼働賛成はほぼ両紙のみ。そのみなぎる自信の科学的根拠をご教示いただきたい。

冴える福井新聞と琉球新報

福井新聞(4月29日付)の社説(論説)は、「原子炉容器は交換できない。しかも再稼働すれば、おおむね10年ぶりの運転となる。人間が不完全な存在である以上、ヒューマンエラーを防ぐのは難しく、自然災害は人知を超える」と、安全性に大いなる疑問符を投げかける。さらに、「使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場が決まっていない現状」を憂い、「閉塞(へいそく)状況を招いた国の責任は重い」とする。そして、「電力の恩恵は主に都市部が受けているのに、特定の地方だけが難問を背負っているように見える。沖縄県の在日米軍専用施設問題と似たゆがんだ構造だ」として、「原発の諸課題には社会の矛盾が凝縮されている」と、重い課題を突きつける。

琉球新報(5月4日付)の社説も、「交付金などを用いて原発に依存する地域の財政・経済構造をつくり上げ、原発を押し付けやすくする」、このやり口が「基地政策と類似している点で、沖縄も人ごとではない」とする。そのうえで、「地域振興とセットで脱原発の道を探る必要がある」と、課題を共有する。

そして、「脱炭素社会」の実現を口実にした再稼働を「国民の安全や健康を守るという王道に逆行」したものと手厳しい。

無神経な政府がもたらす災禍

「サンデー毎日」(5月23日号)で、元村有希子氏(毎日新聞論説委員)は、この国の政府の無神経さに憤る。ひとつは、老朽原発再稼働問題。「政府はこれを突破口にして、全国の老朽原発を動かそうと考えているようだ。福島の事故の収束が見通せない中、デリカシーに欠ける」と。もうひとつは、辺野古の埋め立てに、「沖縄戦の犠牲者が眠る南部の土」が使われる恐れについて。歴史認識の欠如した菅義偉首相が、「遺骨に十分配慮する」よう求めると言ったことを取り上げ、「本質はそこではない。沖縄の人々の尊厳にかかわる問題」と指弾する。そして、「福島も沖縄も、国策のツケを背負わされた上に踏みにじられている。その罪深さに気づかない人々の無神経さは深刻だ」と慨嘆する。

「老朽」化が問題なのは原発だけではない。元村氏が指摘する「政府の無神経さ」は、政府や政治の老朽化現象のひとつである。

自らの老いや劣化に無神経な老朽政府・政治が、取り返しのつかない災禍をもたらすことを、福島と沖縄は教えている。

「地方の眼力」なめんなよ

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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