規制改革推進会議の暴論を正す (第2弾)【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年5月14日
先般の規制改革推進会議のWG(ワーキング・グループ)での生乳取引に関する議論は、耳を疑うような暴論だったので、再度、取り上げて検証したい。
系統外流通が増えていないのは改革が不十分?
既存の系統流通のシェアが低くなっていない、つまり、アウトサイダーのシェアが増えていないのが問題だとは、何を寝ぼけたことを言っているのか。
子供の成長にも不可欠な牛乳・乳製品を消費者に過不足なく届けられるのは、指定団体とメーカーを通じた秩序ある流通によって、取引量が把握され、需給調整機能が働くからこそ可能になる。そこに、需給調整機能を持たない業者を新規参入させた結果、購入した生乳を処理できなくなり、突然の集乳停止が起こり、農家は生乳廃棄に追い込まれた。こうした系統外流通は、生乳が不足基調のときは問題が顕在化しないが、ひとたび需給が緩むと破綻する。
これを見たら、こんなところに飛びついたら、突然取引きが打ち切られてしまうかもしれないと酪農家が思うのは当然である。そうなれば、既存の系統流通の良さが再認識されて、求心力が働く。
改革が足りないのでなく、改革が間違っていたことの証左
つまり、既存の系統流通のほうが信頼できるから酪農家が選択している結果であり、無理やりでも系統流通のシェアを減らさないと改革ではないという論理は破綻している。酪農家の選択を批判するのは間違っている。改革はしてみたけれども失敗したから、シェアは維持されているのであり、それは改革が不十分なせいではなく、改革が間違っていたことの証左である。
農協と組合員との契約は独禁法の適用除外が国際ルール
農協と組合員が全量出荷契約に合意していれば、それが契約であり、部分委託契約(年度途中の変更は認めない)をしていれば、それが契約である。どんなビジネスも契約に基づいて行われる。契約違反があれば取引きは停止される。それをどうして農協だけは拒否してはいけないのだろうか。そのようなことを指示される筋合いはないだろう。
特に、取引交渉力の強い買手に対して、農家が対抗力を形成するための農協による共同販売は、独占禁止法の適用除外になっているのが世界の常識であり、日本の独占禁止法でもそうなっている。つまり、農協と組合員との契約(内規)は外からとやかく言われないことになっている。だから、そもそも、「二股出荷」や「いいとこ取り」のことを議論しなくてはならなくなるような畜安法の改定が間違っていたということである。
世界の常識で、かつ、世界的には強化されようとしている「農協共販の独占禁止法の適用除外」(22条)を日本だけが逆に問題視してなし崩しにするような畜安法や農協法の改定を行って、農協共販つぶしに躍起になっている。農協法の改定では、専属利用契約(組合員が生産物を農協を通じて販売する義務など)は削除され、加えて事業の利用義務を課してはならないと新たな規定を設けてしまっている。本来、契約に同意できないならば、組合員にならずに独自に販売すればよいだけのことである。
畜安法の改定は、我が国でも独占禁止法の適用除外として認められている権利を損なう内容であり、専属利用契約を削除した農協法の改定とともに独占禁止法と矛盾する改定が行われたのを元に戻す必要がある。農水省の元幹部も日本農業新聞のコラム記事で、「アウトサイダーまがいの集乳業者が指定事業者になるというブラックユーモアのような改正を余儀なくされた」と述懐している。
不当な攻撃に萎縮したら思う壺
そして、解釈変更で独禁法の適用を強化して農協を摘発し、実質的に「適用除外」をなし崩しにするという「卑劣な」手法が強化されつつあることも看過できない。たとえば、2017年3月29日、高知県JA土佐あきに対して、公正取引委員会は、ナスの販売について、組合員に対して系統以外に出荷することを制限する条件をつけて販売を受託していたという拘束条件付取引に該当するとして排除措置命令を下した。ナスの部会は元々農家の自主的な組織で、共同出荷施設を維持し、共同販売を促進するために、自らで作っていた規約に対して、農協が系統利用を強制したとの判断がなされた。こうした活動を独禁法違反とすることは、農協共販を独禁法の適用除外としている22条の根幹を揺るがす重大な事態である。
共販が有効に機能するには、共販に結集するための誘因となる自主的なルール(ある程度の縛り)は不可欠である。それなのに、それを違反だというなら、共販を「公正かつ自由な競争秩序の維持促進に積極的な貢献をする」(22条)と認めながら、「ただ乗り」を助長し、共販を壊す、という論理矛盾になっていないか。畜安法の改定と同じ思惑がここにも見える。
系統組織や酪農家は、規制改革会議の発信や独禁法の厳格適用は萎縮効果も狙ったものである。不当な摘発なのに、それを恐れて過剰に反応し、自分たちから共販を弱体化してしまったら、思う壺にはまる。世界的にも認められている共販の権利は堂々と主張し続けるべきである。
そして、生乳共販の意義が再確認されたいまこそ、結束を強化し、メーカーとしっかり連携した秩序ある流通をさらに拡大して、生産者、関連業界、消費者が一丸となって、大切な牛乳・乳製品を不足なく子供たちに届ける使命を果たすことに邁進すべきである。
そのためには、一方で、酪農家の願い・要望に組織がどれだけ応えられるか、一層の工夫も必要である。たとえば、自身の自慢の牛乳をできるだけ狭い地域ブランドで販売したいといった酪農家の想いに系統流通がどこまで対応できるか、といった課題にも業界を挙げて真剣に向き合う必要があろう。
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