【浅野純次・読書の楽しみ】第62回2021年5月19日
◎松竹伸幸『日米地位協定の真実』(集英社新書、968円)
基地管理、横田空域、出入国、税、事故の扱いなど、日本の主権を侵害する地位協定の不合理性は広く知られるようになりました。
本書は現協定とその前身である行政協定とを逐条、比較して、どこがどう変わったか、変わらないままか、を解説しています。そこには欺瞞と作為が多いことがわかります。
こんな屈辱的な二国間協定は世界的に例をみないほど。外務省の役人も、理念なきナショナリズムを振り回す人々も、よく自尊心を傷つけられずに今までやってこられたものよと不思議な思いに駆られてしまいます。
同じ敗戦国のドイツやイタリアは、自国の権利をもっとしっかりと維持しているのに、日本だけどうしてこうなったのか、どうすればいいのか。
著者は現協定下でもしっかりと主張さえすれば実現できることはあると言います。とはいっても25条(日米合同委員会)などは条文を改定する必要を強く感じざるをえません。
つまり現協定のままでもしっかり主張していくこと、条文改定へ向け努力すること、いずれも重要であるというべきでしょう。
集団的自衛権も大事ですが、日々の権利に関わる地位協定もこのままおろそかにしてはいけないことを本書は強く示唆しています。
◎宇佐美典也『菅政権 東大話法とやってる感政治』(星海社新書、1056円)
「東大話法」とは質問をはぐらかし「お答えを差し控える」とうやむやにする話法。「やってる感政治」とはやってもいない改革を進めている「感じ」を演出する政治。ということで、菅首相の言動と「実績」を探った、なかなか興味深い本が目にとまりました。
「そのような指摘は当たらない」「仮定の話にはお答えできない」「法令に則って粛々と進めてまいります」「個別の事案についてお答えするのは差し控えたい」。官房長官時代から昨今まで、菅首相が何十回となく繰り返してきた三百代言です。
元経産官僚の著者は単なる言葉のアヤにとどまらず、小泉政権以来、民主党政権を含む各政権における官邸主導の政治システムを分析し、東大話法が完成していく道のりをうまく描き出しています。
ただし菅政権に対しては相当、辛口ですが、全否定していないところがミソで著者の立場は是々非々でしょう。最終章で国民民主党の玉木雄一郎氏との対談が収録されていて、かなり波長が合っているように感じました。
◎渡辺政隆・文、山本美希・絵『科学の歳事記』(教育評論社、1760円)
寺田寅彦の科学随筆を意識したような書名ですが、見開きの左ページに横書きのエッセー、右側に一コマのカラー漫画で都合63組。理科が苦手だった人でも大丈夫でしょう。
例えば「蜜の味」。マルハナバチは花が反射する紫外線で花の形と種類を見分けて花にとまるだけでなく、触覚とモフモフの毛で花の電荷(電気量)を空中から察知して蜜を吸われたばかりの花かどうかを識別するというからすごいものです。
宵待草ことマツヨイグサの一種は、ハチの羽音に反応し近づくと蜜の糖分濃度を高めて虫を呼び寄せるというから驚かされます。ミミズの生息、生態に関する話も面白い。
動物、植物、宇宙、人間、多様な科学の世界に誘われるのもたまにはよろしいのでは。山本美希さんは新進気鋭のマンガ作家だそうですが、一枚の絵で練達の科学エッセイストによる600字と競り合っているのだから大したもの。まずマンガから入りましょう。
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