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(232)「見て見ぬ振り」の結果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年5月21日

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仕事柄、農業関係者や食品企業関係の方々と話す機会がよくあります。今週は何気ない会話の中で再認識した「気づき」についてご紹介します。

先日、ある食品企業の方と話す機会があり、職場内の様々な課題を雑談の形で意見交換をした。中堅社員であるその方は、特定の商品や技術などの分野で力を発揮していたが、経験を積むにつれ本来の専門分野以外に、職場の様々な「課題」に自然と気が付くようになったという。

「職場の課題」の種類は実に様々だ。表座敷で脚光を浴びる事業計画の骨子のような課題から、倉庫の中で法定保存期間を過ぎたまま山積みになっている書類の処分、あるいは毎日出るゴミの処理...、これらは会議室で正面から議論される課題もあれば、「気が付いた人」が独自に対応・処理しているものまで、公式の職務分掌の中では書ききれないものがいくつも存在する。

雑談で出た事例の1つはコストの件だ。その方が勤務している会社でもコスト削減は上からの指示でしっかり行われているようだが、問題はその中身である。納入資材を値切ることや、旅費交通費の節約、交際費削減などは目につきやすい。「前年度から一律〇%減!」などという指示はどこの組織でも経験したことがあるはずだ。

興味深い点は、設備の維持管理費用、簡単に言えばメンテ費用である。職場には様々な備品・設備がある。最近の機械は優れており滅多なことでは壊れないが、それでも時に調子が悪くなる。そのような時は連絡すればすぐに修理・点検などのサービスを担当する方が来て対応してくれる。筆者の職場でもこうした場面に出会わすことが多い。

だが、サービスには当然費用がかかる。半日や1日、専門の技術者を派遣すればその分の日当、そして点検・修理の技術料、往復の交通費...などがそれに相当する。特殊な機械設備の場合にはそもそもの費用も高額であり、納入業者も限られ、サービス提供者はさらに限定される。よってメンテ費用は高い。

話の内容を簡単に言えば、毎年、こうした機械の維持管理に多額の費用がかかっていたことを認識したその方は、週末を利用して独力である技術に関する資格を取得したという。そして、普段、自分達が使用する設備を定期的に点検し、不具合は自ら修理するようにしたらしい。その結果、勤務先の職場では維持管理費用が着実に減少してきたが、正確な理由は誰も気が付かないようだ。

この話のポイントは、経営者が維持管理費用の減少をどう理解しているかである。コスト削減の名のもとに従業員が無駄使いを控えて費用が減少したな、「よしよし」と思っているのか、それともファンタジーのようにどこかからこの社員のような「妖精」が飛んで来て、寝ている間に傷を治してくれたのか...。

似たような話はデスクワークの事務職の方からも聞いたことがある。毎年、必死でパソコンの表計算を作成・チェックして膨大な資料を作成していたある職場を想定してみよう。プログラミングが出来る若い社員が入り、先輩達が何時間もかけていた作業が、実は極めて定型的であることに気が付く。そして簡単なプログラミングを行い、作業時間を劇的に減らし周りから感謝される。

ところが、そのプログラムを正確に走らすためには、月に1度程度、簡単なチェックとメンテが必要であり、作業量が劇的に減少したことを喜ぶ余り、何をどうチェックすれば良いかを周りが習得しないまま1~2年の時間が経過する。担当者の若手がその職場にいる間は同僚全員が恩恵を受けたが、その担当者が転勤・退職した後に悲劇が生じる。

誰も、メンテができないだけでなく、一度、楽な作業に慣れた同僚達は伝統的な労働集約的作業には気分的にも無理、対応不能で大混乱するようだ。これは誰かが特定の仕事をやっていてくれるからと「見て見ぬふりをして」そのままにしていたことが原因である。残念ながら、こういう状況にはいたるところで遭遇する。

*  *  *

日本の組織の強さの1つ、「改善」とは、日々のオペレーションにおけるこうした気づきと実践の積み重ねです。それを見抜けず、すぐに外部に頼るようになると、貴重な競争力の源泉の1つは無くなり、24時間365日対応のサービスに依存せざるを得なくなります。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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