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千秋楽ドラマに人生訓【記者 透視眼】2021年5月24日

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大相撲夏場所は、やはり23日の千秋楽にドラマが待っていた。コロナ禍の大相撲は不祥事、若手の活躍、復活劇と話題に事欠かなかった。豊作祈願など農事とも関係の深い相撲の奥深さも改めて思う。

国技館

角界揺るがした〝文春砲〟

今場所はなかなか含蓄深い。記者の〈透視眼〉でのぞくと、まず勝負内容の前に、あの〝文春砲〟が火を噴いた事態が見えてくる。

20日発売の週刊文春で詳細な記事を書き、前日のオンライン報道で角界の一大スキャンダルに発展する。

大関・朝乃山が緊急事態下宣言下の5月7日に接客を伴う飲食店に出入りしていた。いわゆるキャバクラ通いだ。日本相撲協会の感染対策のガイドライン違反とともに、協会の事前聴取に「事実無根」と虚偽の答えをしていた。文春報道は動かぬ証拠の写真付き。今週27日木曜日の最新号も追跡記事が出るだろう。

先の首相長男も絡む〈官菅接待〉となる総務省接待問題を報じた〝文春砲〟が、また特ダネを報じた。裏筋の情報提供者の層が圧倒的に厚い。そして現場張り込みの上、写真と音声で裏取り。取材の原点を見る思いだ。

復活照ノ富士と貴景勝激突

さて本題の大相撲の話題に。五輪まで2カ月を切り、コロナ禍で開催有無が政権の命運を左右しかねない。だが、いくつもの課題を抱えながらやはりスポーツは、見る人に前を向かせる力を与える。今回の大相撲の行方を、テレビの前ではらはらどきどきしながら見てきた一人として率直にそう感じる。

千秋楽、貴景勝が意地を見せ、ついに優勝決定戦までもつれ込んだ。そこで優勝をつかんだのは照ノ富士。最後の戦いが済み、すれ違った二人は互いに礼をしたという。清々しい。これぞ国技の真髄でもあろう。

今場所、強さが目立った照ノ富士は、一時はケガ、病気で序二段まで落ちた。まさに地獄を見た男の復活劇だ。

横綱不在の中で場所前、尾車親方(元大関琴風)は4大関に「勝ち越しを目標に置かないで、俺たちの中から優勝しなくちゃ駄目だと臨んでほしい」とハッパを掛けた。こんな中で照ノ富士は「やる限りは上を目指す」と公言し、闘志を燃やした。そして有言実行、実際にやって見せた。

場所盛り上げた学生相撲の星

最終盤の場所を盛り上げた一人は、かつての学生相撲のスター・日大出身の遠藤だ。優勝争いが激しさを増す中で、貴景勝、単独トップを走る照ノ富士を撃破する。今場所を盛り上げた陰の立て役者と言ってもいい。場所後、技の切れと健闘をたたえ三賞の技能賞が与えられた。

それにしても、14日目、照ノ富士戦、軍配差し違えの末の勝利は印象に残る。土俵際に両力士で投げの打ち合い。落ちる直前の写真は、少しでも後に落ちようと腕をたたむ照ノ富士と、体が反り返りながらもまわしを離さない遠藤の、激闘の一瞬をとらえている。結果、遠藤の執念が勝った。この勝負がなかったら、今場所はこれほど千秋楽まで盛り上がらなかった。

朝乃山の失態と無自覚

コロナ禍でコンプラ違反となった朝乃山の厳罰はやむを得まい。4場所以上の休場が勧告される可能性が高い。今回は途中休場で負け越し。カド番で出られず大関の地位陥落、さらに関脇からも落ち、平幕にもいられなくなる。角界を代表する大関という地位の無自覚と自ら招いた失態の結果である。

一方で将来性のある大器なのは確かだ。まだ27歳。懸命に努力すればまた活躍する時間はある。要は本人の自覚次第だろう。地獄を見た照ノ富士の復活劇は、いいお手本になるはずだ。

平成生まれ初の横綱へ

2場所連続優勝の照ノ富士は、次の場所が綱取りに挑むことになる。進退を掛けた横綱・白鵬も戻ってくる。千秋楽で勝ち同星、優勝決定戦にまで持ち込んだ大関・貴景勝もチャンスはまだまだある。記者の〈透視眼〉でのぞくと、平成生まれの初の横綱の誕生は近い。

今場所の大相撲は随所に人生訓が詰まっていた。史上初の大関復帰後の賜杯を手にした照ノ富士のひたむきな努力とあきらめない、折れない心。やはり明日に向かう前向きな気持ちこそが、結局は活路を開くのだと教えてくれた。

〈四股〉と豊作祈願

相撲は歴史的にも農業と関連が深い。

力士が土俵で足を上げ下げし四股(しこ)踏む所作は、もともと大地を強く踏みしめ豊作を祈願する意味合いを持つ。塩をまくのも土地を清め厄災を追い払うためだ。

豊作祈願と前代未聞の復活劇。大相撲の行方からますます目が離せない。

(K)

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