石炭、亜炭、木炭って?【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第149回2021年5月27日
1960年以前の工業の主要なエネルギー源は石炭であり、家庭の炊事・暖房等のエネルギー源は薪や木炭だった。ただし北海道などでは石炭、一部地域では亜炭も家庭のエネルギー源として利用していた。山形の私の生家でも、また学校でも亜炭を熱源として使用していた。
ここまで書いてふと考えた、今の若い人たちは亜炭を知っているだろうか、石炭の名前は知っているかもしれないが、亜炭を見たこと、使ったことはあるだろうか。まさか木炭を知らないなどということはないだろう。
でも泥炭は知っているかもしれない、地学・土壌学の講義で聞いているかもしれないし、もしかして泥炭土壌の田んぼを耕作している農家の子弟がいるかもしれない、また近年温暖化問題で北極の泥炭が話題になっているからだ。
木炭はバーベキュ-のときなどに使われるし、わが国の伝統的な燃料、とうぜん知っているだろう。
それを若い人たちに聞いてみたいと思っても、私は引退の身で若い人たちに聞く機会などない。そこで、前に二宮金次郎に関する学生の認識程度を調べてもらった私の後輩の農経研究者角田毅君(東北大教授)と中村勝則君(秋田県立大学准教授)の研究室の学生諸君(平成生まれの若者)合計12名に、「石炭、亜炭、木炭、泥炭、コークス、練炭、豆炭、七輪を知っているか」とお茶飲みの時間にでも聞いてくれとお願いした(コロナ騒ぎで大変なところ申し訳なかったが)。
そしたら「知っている」と答えた人数は、「石炭12、亜炭0、泥炭7、コークス7、木炭12、練炭9、豆炭2、七輪10、火鉢10」名だったとの回答が返ってきた。
ほぼ思った通りの結果だった。
石炭はさすがに全員知っていた。石油の前の主要エネルギーとして学校で習ってきたろうし、蒸気機関車、石炭火力発電でも知られているからだろう。また、地球温暖化との関わりで石油とともに問題となっていることもある。
亜炭、これは全員知らなかった。亜炭産地の宮城・愛知出身者も知らなかった。彼らにとっては大昔の話、故郷ではもう話題にもならなくなっているのだろう。これも予想通りだった。
泥炭、これは今の理科や地理の教科書に出ているとのことだし、泥炭地帯ではこれをその昔燃料としても使ったこと、温暖化で話題にもなっていること、亜炭は泥炭から石炭に進化するさいの中間に位置するものと考えてよいと角田、中村君が学生諸君に説明するのにいいのではないかと思ったから聞いてみたのだが、さすが半数以上知っていた。
コークス、これはもう知らないだろうと思ったら、さすが大学生、半数以上知っていた、ちょっとおどろいた。
木炭、これも全員知っているだろう、バーベキューなどでも使っているだろうし、炭火焼きの店や焼き鳥屋もあるからだ。ところが一人だけいた。その彼は練炭や七輪を知っていると答えている。ということは木炭も知っているはず、もしかして、炭が木からできていることを知らない、木炭と炭は違うものと考えているからではなかろうか。いずれにしてもこの答えには驚いた。「木炭」を知らないと答える日本人が生まれてきている、まさか何かの間違いだろうと思いたいのだが。
それにひきかえ練炭は9人も知っている、七輪は10人も知っている、これには驚いた。常時使っているとは思えないが、非常時用として家庭においてあるのかもしれない、これは喜ばしい、と角田君に言ったら、彼は苦笑いしながらこう言う、「『練炭自殺』で知っているだけなんですよ」と。愕然としてしまった。時代はここまできていたのだ。
それでもまあ「木炭」を知っている、火鉢をいまだ知っているだけでもいいではないか、とは言ってもバーベキューなる外国の食文化との関わりで知っているあるいはテレビや本で見たことがあるだけ、しかもそこで使っている薪炭は外国産、山村には人も住まなくなり、林野は手入れもなされずに放置され、獣の領土と化している。化石エネルギー、化石文化にどっぷり浸かって生きてきた1970年代以降生まれの化石文化人はそれをどう考えているのだろうか。
それはそれとして、若い人たちが一人も知らなかった「亜炭」とは、そもそもどんなものでどう使ったのか、次回はそれを見てみよう。
(注)いろり、こたつは当然知っているものとして訊かなかった。訊いてもらうべきだったかもしれない、いま後悔している。
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