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種から消費までの地域循環型経済を確立する【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年5月27日

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7月1日には、コメ検査の表示基準が改定されて、未検査米にも「産地・品種・産年」の表示を認めて検査米と変わらない流通が可能となる。都道府県と農協を主体とするコメ流通が一層崩され、公共種子の企業への譲渡、農家の自家増殖制限、コメ検査の緩和が相俟って、企業主導で種の生産・流通過程をコントロールしやすい環境が整備された。進行する事態を把握し打開するためのキーワードは、「グレートリセット」「アグロエコロジー」「ミュニシパリズム」である。

種を握った種子・農薬企業は種と農薬をセットで高く買わせ、できた生産物を安く買い取り、販売ルートは確保して消費者に高く売る。さらに、IT大手と組んだ農業の工業化・デジタル化(グレートリセット→堤未果氏)が進めば、食料生産・流通・消費が企業の完全な支配下におかれ、利益が吸い取られる構造が完成する(印鑰智哉氏)。農家も潰れ、少数の隷属的農業労働者しか必要とされなくなる。

巨大な力に種を握られ、命を握らせてはいけない。我々は、地域で育んできた多様な種を守り、活用し、循環させ、食文化の維持と食料の安全保障につなげるために、シードバンク、参加型認証システム、有機給食などの種の保存・利用活動を支え、育種家・種採り農家・栽培農家・消費者が共に繁栄できる地域の構成員の活動組織と公共的支援の枠組みの具体化を急がねばならぬ。

安全性を犠牲にした安さに飛びついてはいけない。本当に「安い」のは、身近で地域の暮らしを支える多様な経営が供給してくれる安全安心な食材だ。国産=安全ではない。本当に持続できるのは、人にも牛(豚、鶏)にも環境にも種にも優しい、無理をしない農業だ。

すなわち、自然・生態系の摂理に従い、生態系の力を最大限に活用する農業(アグロエコロジー→印鑰智哉氏、吉田太郎氏)だ。経営効率が低いかのようにいわれるのは間違いだ。最大の能力は酷使でなく優しさが引き出す。人、生きもの、環境・生態系に優しい農業は長期的・社会的・総合的に経営効率が最も高い。

協同組合(農漁協、生協、労組など)、共助組織、市民運動組織と自治体の政治・行政などが核となって、各地の生産者、労働者、医療関係者、教育関係者、関連産業、消費者などを一体的に結集して、地域を喰い物にしようとする「今だけ、金だけ、自分だけ」の人達を排除し、安全・安心な食と暮らしを守る、種から消費までの地域住民ネットワークを強化し、地域循環型経済を確立するために、今こそ、それぞれの立場から行動を起こそう。

そのとき、参考になるのは、バルセロナ(スペイン)、ナポリ(イタリア)、グルノーブル(フランス)など、ヨーロッパを中心に広がりつつある、地域に根付いた自治的な民主主義や合意形成を重視する「ミュニシパリズム」(municipalism)という考え方である(岸本聡子氏、印鑰智哉氏)。

地域の構成要素を「コモンズ」(構成員によって共同で利用・管理される共有財や資源)と捉え、市民の政治・政策策定への直接参加を強めることで、すべてのものを企業の儲けの道具に差し出そうとする流れ(新自由主義)を断ち切って、地域を真に市民全体のために維持・発展させていこうという取組みである。自立した地域の取組みの広がりが国全体を動かす原動力になることを期待したい。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら

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