日本人の規律と秩序実感【記者 透視眼:ルポ・ワクチン接種】2021年6月17日
新型コロナ収束へワクチン接種が急ピッチで進む。先週末、東京・大手町の自衛隊東京大規模接種センターで実際に体験した。実感したのは、日本人の規律と秩序だ。接種後は梅雨空から一瞬の青空を垣間見た〈解放感〉に浸った。
円滑に1日1万人のワクチン接種をこなす自衛隊東京大規模接種センター
観光「はとバス」で会場へ
ワクチン接種当日は朝6時前に目覚まし。天気は薄曇り。JR東京駅丸の内口に朝7時半前に降り立つ。
皇居を正面に見る行幸通り。赤レンガの駅舎前には、東京五輪のカウントダウンを刻むオメガの電子時計が、間もなくあと1カ月を告げる。コロナ禍で1年延期となった東京五輪の開催を巡り賛否両論が続く中で、電子掲示板は機械的に五輪間近のシグナルを送る光景は、何とも歴史の皮肉を表わす。
既に駅改札を出ると、プラカードを持つ自衛隊の大規模ワクチン会場の案内係がいる。それにしても、コロナ禍で何もかもが変わった。皇居に近い東京駅丸の内口は、2年前なら外国人客であふれていた。丸の内南口そばの「はとバス」発着場は、まさに東京観光の拠点だった。それがいま、あのなじみの黄色の大型バスが別の役割を担う。大手町の接種センターまで、対象者を定期的に運ぶのだ。始発は7時45分発。朝一番の接種時間である午前8時に間に合う。
朝8時から夜8時まで日1万人
大規模接種会場は、大手町合同庁舎3号館。個人的には、取材で30年間も行き来した大手町のJAビルや経団連会館に隣接しているなじみの地だ。
それにしても、臨時に建った巨大なプレハブ小屋に、朝8時から夜の8時まで1日1万人のワクチン接種を可能とする仕組みには驚く。首相の菅義偉は官房長官時代に様々な危機管理を担ってきた。表には出ない北朝鮮など外国との秘密のミッションも含む。その発想が、コロナ禍の国難に直面し、自衛隊を活用した1万人ワクチン接種の実現に至ったのだろう。旧大蔵省のエリート官僚だった現官房長官の加藤勝信にはない発想だ。
合理的手法支える日本人の秩序
未経験のコロナワクチン接種に誰しもが不安となる。予約は朝8時D会場。必携は居住自治体から届いた接種券、マイナンバーカードや免許証など本人年齢確認。ネット予約は朝8時を皮切りに30分単位でA~D4会場を選べる。接種券の接種個人番号などを入力する。時間帯ごとに残り枠が画面で表示されている。
特設プレハブに入ると、まず接種券保持、マスク着用の確認と検温。「正常、36.1度C」とシールが出て、それを持つ。体温37度以上の発熱のある人はこの時点で「異常」となり、中には進めない。
タブレットで接種券番号バーコードを読み取り予約確認を行う。入力がうまく機能しない。するとすぐシステム関連の人が来て再試行で確認OK。ワクチン接種券やワクチン注射の注意点などの書類、自衛隊接種センターのカラー刷りパンフレットなどのピンクのカラーファイルを渡された。これがポイントで、ファイルの色でグルーピングされ、統一行動となる。青、黄など4色あったので、D会場はピンクと色分けされていたのだろう。
全ては合理的で番号と色分けで進む。1日に1万人の大人数をこなすだけあって密になる渋滞は許されない。人の流れは思った以上にスムーズ。待機場所は通気、乾燥を防ぐミストが常時流れ快適だ。
しかし会場では一貫して、ほとんどの人が私語も慎み、黙々と順番を待ち流れる。そこには日本人の持つ秩序を感じた。訓練された自衛隊員の規律も実感した。
さすがに自衛隊医官
入場から20分足らずで、いよいよワクチン注射へ。色分けされたグループ単位でプレハブを出て合同庁舎3号館2階に。移動エレベーターも密を避けるため人数は5人まで。
まず自分の名前を本人が言い確認。次に生年月日を明記し今年度で65歳以上となることを再確認。ここでも体調を聞かれ、注射によるアレルギーがないか、1回目のワクチン接種かも尋ねられる。利き手とは逆の左肩への筋肉注射となるが、注射器は思ったより細く長い。注射針も長い。
たまたま女医だったが、さすがに自衛隊医官である。「ちょっとチクっとしますよ」と話したが、全く針を刺したことさえ感じない。「シャワーは良いですが今晩のお酒を控えて」との言葉にうなずく。
1回目のワクチン終了を確認の上で、2回目の都合の付くワクチン接種日を対面で決める。そして、最終場面の接種後の経過観察の待機場所へ。入った時間を書いた紙を渡され、また色分けされたグループ単位の列で15分間様子を見る。時間が経過後、何もなければ紙を係員に渡し帰路へ。時間が書かれているので、短い待機時間で返ることはできない。2重、3重のチェックで本人確認や1回目のワクチンであることを確かめる。
全体の時間は40分あまり。腕時計を見ると針は8時45分を指す。極めてスムーズだ。外に出ると雲の切れ間からきれいな青空がのぞいた。その時、なぜか命が救われたような思いが募る。記者の〈透視眼〉からのぞくと、コロナ禍のワクチン効果は気持ち、精神的な面でも大きいのが分かる。
(K)
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