無責任五輪には三猿で臨む【小松泰信・地方の眼力】2021年6月23日
「国内世論は分断されたままで共感は広がっていない。これが開会を1カ月後に控えた東京五輪の現在地である」(西日本新聞・社説、6月22日付)

それほど興奮するものか
6月21日、東京五輪・パラリンピック組織委員会と政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)による5者協議は、東京五輪の国内観客受け入れについて、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、全会場で上限を「定員の50%以内で1万人」とすることなどを合意した。
この決定を「大きな前進」と位置づけ、「選手たちの卓越した技と力の競演には、何ものにも替えがたい価値がある。観客の存在は強い追い風となって選手を鼓舞し、大会の感動と興奮、歴史的な価値を高めてくれるはずだ」と興奮を隠しきれないのは、産経新聞(6月22日付)の社説。
それが、感動と興奮ではなく、感染と公憤をもたらしたとしても、価値があるのですか、とツッコミを禁じ得ない。
「観客を入れることに伴うリスクは軽視できない」ことを踏まえ、「政府には、人流抑制に加え、観客に競技会場への直行や観戦後の直帰などを強く呼びかけてもらいたい」と訴える。ところが、IOC委員やスポンサーなど「五輪ファミリー」と呼ばれる人々のほとんどはワクチン接種を受けて来日するとされているので、日本人観客とは「同列には扱えない」と、堂々たるダブルスタンダード。加えて、「海外から訪れる人々が、日本の『安全・安心』の証人になることも忘れてはならない」と諭してくる。
もしもの時は、彼ら彼女らがわが国の「危険・不安」の証人となることも、お忘れなく。
独善と暴走の象徴
「『普通はない』はずのパンデミック下での五輪の開催を強行し、含みを残しながらも、専門家が『望ましい』とする無観客方式を採ることもしない――。このまま突き進めば『コロナに打ち勝った証し』どころか、科学的知見を踏みにじる『独善と暴走の象徴』になりかねない。とても納得できない」で始まるのは、朝日新聞(6月22日付)の社説。
5月26日付の同社説は、今夏の開催中止の決断を菅首相に求めた。「その主張に変わりはないが、あくまでも大会を開くというのなら、その中でリスクの最小化に向けて採り得る限りの手段を採るのが為政者の責務だ。分科会の尾身茂会長ら専門家有志が18日に公表した提言を真摯(しんし)に読めば、『有観客、1万人』などという話にはならないはずだ」として、「どんな状況になればいかなる措置をとるのか、わかりやすい判断基準をすみやかに国民に、いや世界に示す必要と責任がある。五輪への影響を考えて宣言や重点措置の発出・解除が左右されるようなことがあってはならない。これもまた、改めて言うまでもない当然の理である」と、国の内外を納得させる説明を求めている。
何のための、誰のための五輪なのか
「専門家の提言は生かされなかった。世論も置き去りにされたままだ」と嘆くのは、沖縄タイムス(6月22日付)の社説。
学校単位の子どもやIOCなどの関係者、招待客は観客に含まれないことについて、「『1万人+アルファ(α)』で別枠扱いとなれば上限は守られないことになる。さらに、開会式の観客数については『精査中』と答え人数さえ明らかにしなかった。スポンサー枠が一体どれぐらいあるのか、関係者とは誰なのか。総人数や内訳を早急に明らかにすべきだ」と厳しく迫る。
さらに、「何のための、誰のための五輪なのか。五輪開催が国内のコロナ対策を遅らせたり、救える国民の命を危険にさらすことは許されない」としたうえで、「海外から訪れる選手や関係者の感染リスクはもちろん、県境を越える人の流れで、国民の命が危険にさらされるリスクが増大するのは明らかだ。再び、緊急事態が宣言されれば、国民の理解が得られぬまま『強行』した菅首相の政治責任は免れない」と容赦無い。
オツムの悪い? 指導者は
菅首相と言えば、6月9日の党首討論で、東洋の魔女と呼ばれた女子バレーの回転レシーブ、マラソンのアベベ、そして柔道のヘーシンクを例にあげ、だらだらと57年前の東京オリンピックの思い出噺をしたのには腰が砕けるようなへなへな感を覚えた。
牧太郎氏(毎日新聞客員編集委員)もこの場面を「サンデー毎日」(7月4日号)で取り上げた。
書き出しは、「リーダーが『思い出噺』に酔い痴れる時、組織は必ず衰退する」。
1940年頃、大日本帝国は、各界の若手エリートを集めて「国の行く末」を率直に議論する内閣直轄の「総力戦研究所」を作った。そこで行った日米戦争を想定した「総力戦机上演習」の結論は、「敗北は避けられない。ゆえに戦争は不可能である」。ところが、時の陸相・東條英機が、勝てるとは思っていなかった日露戦争に勝った、という「思い出噺」を持ち出した。その3カ月後、開戦に踏み切り、結果は完敗。
菅、東條、両氏のエピソードを「オツムの悪い? 指導者は今も昔もピンチになると『思い出噺』に逃げ込む」と総括し、「それにしても、いつの時代も国民は犠牲者!なんだけど」と慨嘆する。
三猿のすすめ
国民に加えて、オリンピックそのものも犠牲者であることを、「最初に言いたい。これほど開催国や開催都市の人々に歓迎されない五輪は初めてではないでしょうか」で始まる、社会学者・上野千鶴子氏(東京大名誉教授)のインタビュー記事(毎日新聞6月23日付)が教えている。氏はさらに、「政治は情熱と信念では免罪されません。結果責任です。効果よりリスクが大きいならば、引き返す勇気も必要です。大局的に判断できる人がどこにもいません」と、その無責任体制を指摘する。
そして、「選手やボランティア、関係者、宿泊施設の従業員らから感染者が出て、万が一にも死者が出た場合、誰が補償をするのでしょうか。メディアはきちんとウオッチして、見逃さないようにしてほしい」と、メディアに注文を付けている。
悲しいかなそのメディア、JOC経理部長(52)の地下鉄飛び込み自殺の真相に迫るもの無し。
五輪貴族とその腰巾着どもは、「開会式を迎え、競技が始まれば、感動物語で脚色されたアスリートの姿に、人々の目も、耳も、心も奪われ、オリンピック賛歌が国中にあふれるはず。ぜひメディアには、頑張ってもらいたい」と思っているはず。
とんでもない、こんな空騒ぎには、三猿を決め込み、「絶対中止」のメッセージを発し続ける。
「地方の眼力」なめんなよ
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