「エネルギー革命」と農山村【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第153回2021年6月24日
かつての工業の主要なエネルギー源は石炭であり、家庭の炊事・暖房等のエネルギー源は薪や木炭(北海道はこれに石炭、宮城・山形・愛知等一部地域は亜炭が加わる)だったとこれまで述べてきたが、1960年前後ころから、もはや石炭や薪炭の時代ではない、これからは石油の時代だ、エネルギーを石油に切り換える時代、「エネルギー革命」の時代だと喧伝されるようになってきた。
1950年代に中東やアフリカで相次いで大油田が発見され、1962(昭37)年になって原油の輸入が自由化され、それに対応してLPガスも生産され、石炭や薪炭と比べ安く安定的に供給できるようになったきたからである。
かくして日本の石炭は追放され、日本の炭坑はすべて閉山に追い込まれ、蒸気機関車もなくなり。亜炭の燃えるにおいもかげなくなってしまった。
しかし、石炭の使用がなくなったわけではなかった。たとえば発電でみれば石炭火力は減るどころか大きく増加している。ただしその石炭は日本産ではなく輸入品だった。要するに、安い外国産石炭に乗り換えるためにエネルギー革命と称して国内の炭坑を潰したのである。それに反対する炭鉱労働者の運動は右翼暴力団まで動員して徹底して弾圧された。
そして電気と石油、LNGに産業エネルギーを切り換え、家庭の炊事・暖房のエネルギーも切り換えられていった。マッチやライターで火をつけ、国産の薪炭で炊事をし、暖をとるという時代は終止符を打ったのである。
かくしてわが国のエネルギーはほとんど外国産となってしまった。財界・マスコミの喧伝したエネルギー革命とは、エネルギー源の国産から外国産燃料への依存への転化を意味するものだったのである。
そして「エネルギー革命」は、わが国の薪炭生産に、それを主要なあるいは副次的な仕事として生きてきたわが国の山村住民にその仕事を失わせた。かまど、いろり、火鉢、七輪、こたつ、あんか、風呂等々で薪炭を使う人、買う人がいなくなって消費は落ち込み、売れなくなってきたからである。みんなやめざるを得なくなったのである。薪炭生産に従事してきた人ばかりでなく、その流通にたずさわる人たちもその収入源を絶たれた。
前に述べたように、薪炭の生産に従事する人のほとんどは農業もいとなむ農家でもあったが、そのいとなむ畑での麦・大豆生産に引き続いての薪炭生産の壊滅、どうしようもなかった。しかし、それで食えなくなったことに対する国による補償も支援もほとんどなかった。炭鉱労働者の失業に対しては手厚い対策・支援体制が整えられ,再就職のみならず,移動,住宅,職業訓練等を含めた「総合的な対策」まで講じられたのにである。これは自分たちの生きていく権利をまもるための組織的な闘いをしたかしないかの違いからきたものではなかったろうか。組合員の暮らしをまもる組織の農協もようやく再建整備から抜け出そうとしていた時期、運動を展開することはいまだできなかった。
生き残る道は二つあった、一つはいまだ不足していて価格も相対的によかった米の増産、そのための多収技術の追求と開田であり、もう一つは始まりつつあった高度経済成長による労働力の需要に応えて夏冬の農閑期に都市部や工業地帯に稼ぎに行って、家計を維持することだった。
そんなところに出されたのが1961(昭36)年の「農業基本法」だった。
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