パキスタンとの国際「食肉技術」交流【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年6月25日
世界最大の国際行事の1つであるオリンピック・パラリンピックを1か月後に控え、日本国内では様々な準備が進んでいます。ところで、国際交流はアスリートや大学生の留学だけではありません。意外なところでも知恵を凝らした国際交流が進んでいます。その1つ、パキスタンとの「食肉技術」交流を紹介しましょう。
一頃、日本の様々な技術、新幹線から上下水道までをいかに海外諸国に提供していくかが話題になった。食の世界ではともすれば、UNESCOの無形文化遺産に登録された「和食」や伝統的な寿司・刺身・天ぷらなどの料理から最近では色鮮やかなスイーツなどが注目されがちである。
だが、食産業という極めて大きな産業全体を考えた時に、その重要なインフラ部分を忘れてはならない。「和食」や寿司、スイーツなどが川下とすれば、食肉を川下に届けるための川上のインフラを支える基盤となる技術である。
日本式食肉処理・加工技術もそのひとつだ。普段の我々は、ブロックどころか小さくカットされた肉をどのように調理するかを目の前で競っている。それはそれで重要だが、川上でも同様に、いかにすれば食肉の良さを最大限に生かした上で流通機構に流し、消費者に届けるかが問われている。環境問題や動物愛護という厳しい視線の中で、家畜の命を頂き、食べ物とする以上、そこは単純な大量生産的加工では十分ではなく、加工プロセスの1つ1つに細かい配慮が求められる。現代では、それらの配慮は宗教上のものばかりでなく、アレルギーや二酸化炭素、そしてSDGsなどの視点まで加わるため、グローバルとローカルの区別はなく、全てを考える必要がある。
さて、先日、ラジオ番組で「代替肉」を扱い筆者も参加する機会を得た。内容は以下のアドレスで6月29日まで聞くことができるので、ご関心ある方は聞いて頂ければ幸いである(※1)。
その中で既存の食肉と代替肉との共存共栄をイメージした話をしたところ、翌日、古い友人から早速興味深い連絡を頂戴した。情報は本当に早い。あるいはそれだけ関心が高いということでもあろう。
彼によると、近年、和牛人気が海外でも高まり、日本の食肉に関するセミナー等の需要も順調に増加してきた。様々な情報を英語で記載し、Webやパンフレットで発信する機会が増えたという。その一方、新型コロナウイルス感染症の影響で海外との行き来が難しくなったが、英語で記されていた情報を見て、パキスタンから問い合わせがあったという。
詳しくは、公益社団法人全国食肉学校の学校長である小原和仁氏ご本人が『畜産の情報』2021年6月号に、「パキスタンにおける畜産職業訓練学校牛肉コース開設への取り組み」(※2)という文章を寄稿しているので是非、目を通して頂ければと思う。コロナによる逆風から思わぬ形で新しい動きが生じた経過、そして日本の畜産が世界に貢献するひとつの興味深い実践事例が記されている。
言うまでもなく「和食」は日本の風土や社会、そして日々の生活に根付き、発達した料理だが、日本を代表する「文化」でもある。そしてその文化的側面は、素材の調達から調理、提供の仕方、容器、食べ方など、あらゆる面に及ぶからこそ、「文化」として理解されている。
そうであれば、日本式の食肉処理・加工技術は欧米式のメカニカルなテクニックではなく、仮にそれを踏まえていたとしても、日本の職人による様々な工夫や改善が凝らされている「技術」である点にこそ、「和食」が持つ「文化」と同じ要素を備えていると考えられる。これは筆者の想像だが、パキスタンが本当に学びたいのは、そして先述の小原氏らが本当に伝えたいのは、食肉加工の技術はもちろんだが、それ以上に、我々の心の中に無意識のうちに埋め込まれている素材の取扱い方、つまり「和食」に似た意識や姿勢なのではないだろうか。それを共有することこそが国際交流の真価ではないかと考えられる。
* * *
日本式の焼肉も欧米式のガッツリとしたステーキも良いですね。また、最近は好奇心が旺盛のため、町中で大豆バーガーなどを見るとつい買ってしまいます。少し落ち着いて食肉について考えたいと思いつつ...。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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