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ウッドショック療法【小松泰信・地方の眼力】2021年7月14日

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今年3月頃から住宅業界で「ウッドショック」と呼ばれる現象が騒がれ始めている。ウッドショックとは輸入木材価格の高騰のことを指し、かつてのオイルショックになぞらえて名付けられた言葉である。

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ウッドショックの背景と林野庁の姿勢

価格高騰の主な理由としてあげられているのは、アメリカや中国での住宅着工件数の急増と世界的なコンテナ不足などで木材の輸出入が困難になっていることである。

毎日新聞(7月10日付)によれば、林野庁が4月に開いた木材関係業界の会合では「活路が見えない」などと、過熱する木材争奪戦に懸念が噴出した。同庁は住宅建築向け木材の適切な発注や、過剰在庫の抑制を呼び掛ける通知を出すとともに、全国各地で需給情報を共有する会合を順次開催している。その一方で、「安価な輸入材に勝てなかった国産材に追い風が吹いている」とみて、新規就業者への支援や機械導入による生産性向上など、林業の競争力強化を進める意向だ。

同記事は、国内の林業・木材産業関係者から出ている中長期的な「国産回帰」への期待に応えるためには、「人材確保や増産投資が急務」としている。ただし、「輸入材価格の安定後も国産材を使い続けるとの確証が持てないため」、木材流通の「川上」に位置する林業関係者には、国産材への旺盛な需要が長続きするのかどうかの懸念があることも紹介している。

脆弱な林業の姿と復活への期待

南日本新聞(7月2日付)の社説は、「相場の行方は不透明」としつつも、「国産材のシェアを伸ばす好機にほかならない。衰退する林業の再興につなげたい」と前向きにとらえているが、「1980年に14万6000人いた林業従事者は4万5000人(2015年)に減少した。高齢化が進み、増産しようにも対応できないのが現実だ」と、冷静に分析している。

高度成長期に木材需要を国内だけで賄えず、輸入材に依存を続けてきた結果、「脆弱な林業」になった現実を「ウッドショックがあぶり出した」と指摘する。そのうえで、「国際情勢に左右されない国産材の供給力、価格競争力の強化」を求めている。

加えて、「国産材の利用拡大で林業従事者の所得や労働環境を向上させ、担い手を増やしたい。伐採収入で再造林ができる林業経営が確立し、森林による温室効果ガスの吸収量が増えれば、排出を実質ゼロにする『カーボンニュートラル』の流れも加速しよう」と、その復活に期待を寄せる。

先人が作った田舎の財産

西日本新聞(7月1日付)は、福岡県木材組合連合会の平川辰男会長の興味深い見解を紹介している。

氏は、ウッドショックによる国産原木(丸太)市場の高騰を「バブル」と見なす。そして、「バブルはいつか収束する。『値が高い今のうちに』と山から大量に切り出したとしても、夏は木の伐採には適さない時期で、木材に菌が入ることもある。先買いした業者は損をする可能性もある」ことから、「バブルに浮かれず、これを機に国産材の利用をどうしたら増やせるか真剣に考えるべきだ」と、業界に冷静な対応を求める。そして、「『外国産材は安い』は昔の話だ」として、「マンションの内装材、公共建築用に国産材を使いやすくするような努力」が必要としている。

さらに、伐採適齢期にある多くのスギやヒノキを「先人が作った田舎の財産」と位置づけ、「住宅は地域の素材を使う地域産業だと思う。(中略)木材の産出から利用まで循環をつなげていけば、地方の経済を回すことにつながる」とは、示唆に富んでいる。

消費者の課題

産経新聞(THE SANKEI NEWS、中部長野、7月11日20時)は、長野など4県の国有林を管理する林野庁中部森林管理局が業者を対象に行ったヒアリングの概要を伝えている。

ウッドショックを国内林業にとってのチャンスとして期待する声として、「木材価格の高騰が会社の販路にも好影響をもたらしてくれればと期待している」(森林組合など林業事業体)、「国産材の需要高、価格上昇は健全な林業経営につながり継続を期待している」(木材市場など流通業者)、「今までが安すぎた。山元に還元できる価格とならなければならない。外材から国産材へ転換し国産材を使う、このために価格修正がなされていくことは良いことではないか」(木材加工など需要者)などを紹介している。

他方で、「昨年の価格の下落に伴い、今年度の事業を(森林の)保育作業主体の事業計画となるよう町村へお願いしているため、伐採作業への急激なシフトはできない状況」という、迅速な対応の難しさを指摘する声も紹介している。

宮崎正毅氏(長野県木材協同組合連合会理事長)は、「チャンスはチャンスだろう。国産材に目を向けてもらったから。それをどう持続させるかだ。森林は観光などでも役に立ち、薪を欲しがる人もいる。外材に頼った家づくりから地域に貢献した家づくりへと変わっていけば、安定的な材料供給ができるはず」と、インタビューに答えている。

以上から同記事は、「木材利用の見直しは脱炭素につながり、特に地元木材は輸送エネルギーも節約できる。森林の果たす役割は、水害の防止を含めた保水や気候の安定、生態系の維持、安らぎを生み出すなど多岐にわたる。単なるマテリアル(原材料)か、それともその背景に思いを巡らすか-消費者が改めて考える機会にしたい」と、消費者にも重要な課題を投げかけている。

木も見て森も見よ

「国づくりとは樹木で山を埋めることにあり」は、伊達政宗(仙台藩初代藩主)が好んだ言葉としてNHK朝ドラ「おかえりモネ」で紹介された。林野庁のHPでもこのドラマにあわせて、森林や林業などについて独自の解説をしている。伊達公の言葉を紹介した最後には、「現代では、地球温暖化の影響もあり、以前にも増して集中豪雨が多発し、山地災害の危険性が高まっています。積極的に木材を利用し脱炭素社会の実現に貢献するとともに、伐採後には適切に造林を行い森林吸収源を確保したり、山地災害を防止する役割を強化する取組が一層重要となっています」と記されている。

「2020年度森林・林業白書 概要」には、「2020年12月に決定した『農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略』において、製材・合板を輸出の重点品目に選定。中国・米国・韓国・台湾等をターゲットに、建築部材・高耐久木材の海外販路拡大やマーケティング等に取り組む方針」と記されており、製材・合板の輸出を促進することが明記されている。

森林が果たしている多面的機能を忘れ、輸出に向けて樹木を切りまくる愚を犯さぬよう、警戒を怠ってはならない。

もしウッドショックが、我々に森林や林業の役割を気づかせてくれるとすれば、ショック療法としての価値は認められよう。

「地方の眼力」なめんなよ

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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