『TPPプラス』の収れんの行方を考える【近藤康男・TPPから見える風景】2021年7月15日
前回7月1日のコラムで、ブレトンウッズ体制以降のグローバル化の変遷と通商協定の辿り着いた地点について記した。暫く大きな動きは想定されないものの、次の展開に向けて既存の経済連携に絡んでどのような動きが進むのか考えたい。
"TPPプラス"?
私がこの間参加してきた有志の運動体が共同事務局に一つ参加している超党派の幅広いネットワ-クは、「TPPプラスを許さない!全国共同行動」の名称で活動している。
TPP以降登場する類似の通商交渉・協定にも反対していこう、と言う意志を表したものだ。TPP以降、日本は日EU・EPA、日米貿易協定・デジタル貿易協定、日英EPAを発効させ、現在ASEAN10ヶ国と日・中・韓・豪・NZとで昨年11月に合意署名したRCEPの発効を待っている。
RCEPの国会審議中、茂木外相は繰り返し、「TPPが政府の目指す高水準の協定だ」と強調していた。また日英EPAの交換文書では、わざわざ英国のCPTPP(TPP11)参加を歓迎し協力すると約束している。
つまり、順番はジグザグすると思われるが、当面目指すべきべきは、TPP11の参加国を拡大すること、TPP11の更なる高水準化、既存の主要な通商協定をTPP並みとするような見直しを進める、という"3つのTPPプラス"だろう。
米国も連邦議会上院でのTPPに関する審理を開始、参加国の拡大の動きはどうなるか?
英国については、既に6月2日の第4回TPP委員会で加盟のための作業部会設置が決定され、6月22日に議長国日本と英国との間で今後の加入手続きの進め方を確認した。次は作業部会で英国が高水準の協定内容を順守する意向があることを表明し、その後30日内に英国から関税削減・撤廃などについて提案をし、各国との2国間交渉を本格化することとなる。
その他の国々も、昨年11月のAPEC首脳会議以降、中国が参加検討を表明し、更に台湾、韓国、フィリピンなども強い興味を示している。
米国については、国内優先の投資・雇用政策、対中での同盟国などとの共同体制構築などを考えると、具体的な検討はまだまだ先の事と思われる。しかし、6月22日の連邦議会上院財政委員会の国際貿易に関する小委員会で最初の審理が始められた(22日付の専門紙Inside US Trade)。この伏線には6月13日付ワシントンポスト紙への、上院財政委員会所属の民主・共和党2人の議員によるTPP再復帰を訴える寄稿があった。
6月22日の小委員会について両議員は「有意義だった」と評価しており、証言台に立った元USTRのアジア担当の次席代表代行カトラ-氏から、将来復帰に向けて様々なことが言及された。「米国として改正を求めるべき条項、削除すべき条項もある」として、
(1)新NAFTAと同様に環境・労働について米国の利害を反映すべきだ、
(2)先端技術などの信頼できる供給網の課題は付属書含め追加すべき内容だ、
(3)デジタル分野も重要だ、としたうえで、
更に暫定的に少数の国々との通商交渉が中期的な解決に繋がり、時間を掛けて米国内・議会内関係者の意識の変化を促すことにもなり得るし、TPP11への復帰は中国を制御する上でも効果的だ、と指摘した。
TPPの高水準化としてのデジタル分野(電子商取引)の見直し・拡大も
TPPでは一部に留まっていたが、既に新NAFTAと日米貿易協定で、投資先の国におけるサーバ―設置強要の禁止・ソースコ-ド開示要求の禁止・アルゴリズム開示要求の禁止が織り込まれている。
この他にも既存の協定には、関連する課題として織り込まれていることを思い出す必要がある。既に日EU・EPAでは2月1日にデジタル分野の拡大について合同委員会協議が始まっている。議事録での詳細な報告はされていないが様々な議題と共に「データの自由な流通に関する規定を日EU・EPAに含める必要性を再評価すべく、予備的協議を行うことで一致した」とされている。
国際的には、内容は未だ定かでないが、「データ取引への関与を強める中国を枠組みに入れるために、APEC事務局と日米豪中のシンクタンクが近じか提言発表」との報道がされている(4月24日付日経)。日本からは経済産業研究所RIETIが参加し「内外無差別、保護貿易を減らすとの原則を目指し、AIの倫理基準の共通化や通関のデータ化などで共通する枠組み作りも進める」としている。
他のEPA見直しや、米国での議論の進展と絡みつつTPPの見直しも進むと思われる。
TPP化につながる可能性を持つ他のEPAの見直し条項
最近の主なEPAの見直し条項を概観すると、上述のTPPの参加国拡大、TPPの高水準化と絡みつつ、ある種の"TPP化"への議論が進みそうだ。代表的な「デジタル分野」「ISDS」について触れたい。
TPP後の協定である新NAFTA、日米デジタル貿易協定、日EU・EPAについては既にふれた。RCEPにおいても、12章・電子商取引で"デジタル・プロダクトの待遇やソースコードの開示要求の禁止等について対話し、協定発効後の一般的な見直しにおいては、同対話の結果を考慮するとともに、第 19章・紛争解決章に規定する紛争解決の適用について見直しを行う義務"が規定されている(20年11月15日付RCEPファクトシ-ト)。
ISDS条項を含まない日英EPAでは、8章・投資章第5条見直し3項で「一方の国がISDS条項を持つ協定に参加した場合には他の国は見直しを求めることが出来る」ことが規定されている。そしてRCEPでさえ、10章・投資章で「投資家と国との間の投資紛争の解決のための手続(ISDS)のほか、-略-ついては、本協定において規定されていないが、協定発効の後2年以内に、討議を開始する義務」が規定されている(20年11月15日付ファクトシート)。
ただ、TPP11(CPTPP)ではNZ対豪州が互いにISDS不適用で合意(16年2月6日付TPP12)、NZ対マレーシア・ペル-・ベトナムがISDSについて別途の交換文書などで、互いにISDSについて慎重・政府間交渉優先などの立場を取っている(18年3月8日付)。またカナダ・チリがNZと共同でISDSについて"責任ある形で利用する"とする共同宣言を発表している(18年3月2日付)。
TPP11では、ISDS積極派は少数派になっていることも承知しておくべきだろう。TPPは発効したが、更にどのような取り組みが必要か問われている。
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