(240)奇妙な接点【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年7月16日
本来なら決して話が通じそうもない相手と、意外な接点が生じたりします。思わぬ「出会い」の話。
妙なところで話が通じることがある。いわゆる育成シュミレーションゲームの類だ。自分自身はこれらのゲームはほぼやらないが、数年前に子供がやっていたことから最初の共通点が出始めた。
旧軍の航空母艦、戦艦などの名前や特徴など、自分達が子供の頃は雑誌のイラストや書籍の写真で覚えた。簡単なイラストから入り、興味が出るとプラモデルや小説などに入る。さらに関心が深くなれば専門書を読み、マニアックな知識を蓄積したものだ。小学校3~4年の頃、飛行機に興味を持ち、戦時中の各国の陸海軍の戦闘機などを徹底的に覚えたことがある。
戦争云々ではなく、単純にあの手の大型機械に対し興味があったのだろう。エンジンはどこの会社が作り、どこが委託生産したとか、航続距離がどうだとか、相手国の対抗機種はどうだとか、小学生同士の取るに足らない議論である。それでも、旋回性能がどうだとか、初期のテストパイロットが亡くなった理由は試作機のどこに問題があったからだとか...、知ったような話を本から仕入れ、と友達と交わした記憶がある。
これらの記憶は遥か昔のものだが、最近、40年以上年齢の離れた世代と妙な形で話が合う時があることに気が付いた。よくよく聞くと、育成シュミレーションゲームを通じて彼らは様々な名前を覚えたようだ。古いところでは自分の子供もある時期「艦コレ」をやっていたようで、戦時中の空母や戦艦はともかく巡洋艦や駆逐艦の名前など知るはずがないと思っていたところ、妙に話が通じて驚いたことがある。
戦国武将の名前、著名な作家や作品の名前などもそうだ。船などが擬人化され、妙に可愛い女の子やイケメンの若者になっている点は還暦を超えた身には抵抗が無いと言えばウソになるが、何も知らないよりははるかに良い。自分達の持つ偉人のイメージも実は有名俳優がドラマで演じた名演技や教科書の絵の印象だったりするからだ。
文学作品も同じで、例えば泉鏡花=『高野聖』や田山花袋=『田舎教師』などというのは中学時代に何となく覚えた一対一対応の受験用暗記であり、実際に作品を読んだことのある人はかなり少ないはずだ。仮名遣いからして現代語とはかなり異なる。筆者はそれで大昔、樋口一葉を断念した記憶がある。以来読んでいない。
それが、「文豪ストレイドッグス」のアニメの中で特定のキャラクターとして登場すると、何となく文学史も違った趣を与えることになる。教育の最前線の現場で苦労されている現役の国語の先生方からは批判を浴びるかもしれないが、作品を語る際の、最初の入口として、生徒たちには丸暗記より遥かに印象に残るのではないかと思う。
こうした歴史上の有名な事物の擬人化やアニメの登場人物としての活用が、歴史を真剣に知ろうとする契機になるかどうかは不明だが、少なくとも現代の日常生活の中では忘却の彼方にある様々な名前や作品が新たな生命を与えられて次の世代に受け継がれていると考えれば良い。そこで少しでも関心を持てば原作に進むであろう。10人20人のうち、1人でも原作を読めば立派なものだ。実際、自分達の時代ですら、本当に原作を徹底的に読んだ人間がどのくらいいるかはわからない。
筆者自身、『古事記』や『日本書記』ですら、仕事で必要になり、この歳にして少しずつ必要なところを読み直す状況である。古代ギリシャ・ローマの名作も同様だ。
話は突然変わるが、大学の農学部あるいは農学系学部にいる研究者の中で、学位は農学でも自分は農学者ではなく生命科学者、微生物学者、あるいは土壌学者や昆虫学者であるという方は恐らく相当数存在すると思う。
特定分野の中が細分化するというのは学問の方向としては当然かもしれない。だが、農家の視点で「農業」を全体として捉える際には意外と厄介である。60代と20代が「艦コレ」や「文豪ストレイドックス」で持ち得たような不思議な接点は、細分化した農学の諸分野はさらに次の世代の農家と持てるのだろうか...などと漠然と考えた次第である。
* *
そう言えば、最初に子供達が「賢者の石!」と言い始めたのはハリー・ポッターの頃、そして「鋼の錬金術師」で再び...ですね。ファンタジー小説やアニメを通じて得た知識のようですが、意外にしっかりと知っていたので驚いたことがあります。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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