(241)中国の豚肉生産とTikTok禁止令撤回【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年7月23日
アフリカ豚熱(ASF:African Swine Fever)で大きく減少していた中国の豚肉生産量が着実に回復しています。ただし、豚肉「輸入量」も高水準が継続する見込みです。
中国におけるアフリカ豚熱の発生は2018年夏である。したがって統計上は2019年以降にその影響が明確に現れている。それまで豚肉生産量は順調に伸び、5452万トン(2017年)、5404万トン(2018年)と年間5400万トン以上を生産していた。それが、2019年には4255万トン、2020年には3634万トンにまで減少した。ピーク時の生産量の実に3分の1、約1800万トンが一気に吹き飛んでいる。
この間、ほぼ同水準で推移していた需要はピーク時の5581万トン(2017年)から4152万トン(2020年)へと約4分の1の減少に留まっている。
生産量の減少と需要の減少がパラレルに推移すれば問題は少ないが、胃袋は中々素直に反応しない。とくに中国にとって豚肉は主食の1つであるからだ。
よって、単純に考えれば、3分の1と4分の1の差、約8%をどこかで埋めなければならない。5500万トンの8%は440万トンである。その一部は、長期的には牛肉や鶏肉にシフトしていくのだろうが、目の前の胃袋を満たすには「在るところから持ってくる」のが一番早い。その結果、2017年当時150万トン程度であった中国の豚肉輸入は2019年245万トン、2020年528万トンへと跳ね上がる。
2017年当時、世界の豚肉の年間貿易量は750万トン程度であったが、2020年の実績は1088万トン、2021年も1113万トンが見込まれている。このうち中国は500万トンを占める。非常に分かり易い構図である。
では、どこがこの中国の豚肉輸入需要を捉えたか。2017年と2021年(見込み)の主要輸出国の中で輸出数量を大きく伸ばしているのは、EU(+169万トン)、米国(+87万トン)、ブラジル(+50万トン)、カナダ(+27万トン)である。これらの国の輸出は必ずしも中国向けが全てではないが、この数年間の国際環境変化の中で、どこの国の豚肉が輸出数量を伸ばしたかという視点で見れば、結果は言うまでも無い。
さて、米国農務省の発表によれば、2021年の中国の豚肉国内需要は4864万トンにまで回復見込みである。これは2020年から700万トンの回復である。同じペースが続けば2022年には再び5500万トンが視野に入る。これに対し、生産量は4375万トンであり、2020年から740万トン回復している。同じペースで回復しても5000万トンがせいぜいであり、需給ギャップは500万トン程度存在する。相手は計画経済の国である以上、10年先はともかく来年度に関してはそれほど大きく変わらないと見て良いであろう。
これが意味するとことは明らかだ。現況が継続した場合、中国は2022年には再び豚肉生産量5000万トンの大台に回復するが、それでも国際市場で最大の豚肉輸入国であり続け、500万トン水準の輸入を継続する...ということである。
アフリカ豚熱により中国の豚肉が問題となっていた時、世の中では米中貿易摩擦が最も注目されていた。2020年1月15日に、両国は米中経済貿易協定に署名し、その後は新型コロナウイルス感染症対策での協力が全面に出始めた。そうした中で米国の前トランプ政権は報復関税と別に中国の動画投稿アプリであるTikTokやSNSのWeChatのダウンロードの禁止など、いわゆる配信禁止措置を実施した。その後、米国連邦地裁による差し止めなどを経て、バイデン政権は2021年6月9日、配信禁止令を撤回している。
豚肉と動画投稿アプリやSNSアプリとは何の関係も無い。だが、一連の流れを見ていると、様々なドタバタの後あるいは関係者の相当の苦労の末、結局は両国が納得できるそれなりのところに落ち着いたということであろうか。コロナ問題はまだ継続中だが、豚肉は当面、何とか(調達も輸出も)お互いに目処が付いた...というのが率直なところなのかもしれない。
* *
現実の国際交渉に直接携わる人の苦労は本当に大変だと思います。同時に、部外者が外から数字と流れを見ていると、ある時、ふと無関係な複数の事例が結びつく時があるのが面白いですね。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
【年頭あいさつ 2025】国際協同組合年機に反転 村上光雄 一般社団法人 農協協会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】基本法理念 実現の時 江藤拓 農林水産大臣2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】基本法の具体化に全力 山野徹 全国農業協同組合中央会 代表理事会長2025年1月2日
-
食と農を未来へつなぐ【年頭あいさつ 2025】折原敬一 全国農業協同組合連合会 経営管理委員会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】利用者本位の活動基調に 青江伯夫 全国共済農業協同組合連合会 経営管理委員会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】つながり強化戦略推進 奥和登 農林中央金庫 代表理事理事長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】医療、福祉の充実に一丸 長谷川浩敏 全国厚生農業協同組合連合会 代表理事会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】『家の光』創刊100周年 JA教育文化活動支援に尽くす 栗原隆政 (一社)家の光協会 代表理事会長2025年1月2日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(2)2025年1月1日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(3)2025年1月1日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(4)2025年1月1日
-
2025年度 農林水産関係予算 2兆2706億円 前年より20億円増2024年12月27日
-
【特殊報】モモほ場で「モモ果実赤点病」県内で初めて確認 愛知県2024年12月27日
-
【特殊報】ブドウにシタベニハゴロモ 県内の果樹園地で初めて確認 富山県2024年12月27日
-
【注意報】かぼちゃにアブラムシ類 八重山地域で多発 沖縄県2024年12月27日
-
米輸入めぐるウルグアイ・ラウンド(UR)交渉 過度な秘密主義に閣僚も「恥」 1993年外交文書公開2024年12月27日
-
1月の野菜生育状況 さといも以外の価格 平年を上回る見込み 農水省2024年12月27日
-
(416)「温故知新」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月27日
-
東京23区の12月の消費者物価 生鮮食品の前年同月比は2桁増2024年12月27日
-
JA全農あきたがスマート農業研修会 農機・担い手合同は初2024年12月27日