(242)「人造肉」から「代替肉」へ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年7月30日
先日、ふとしたことから「代替肉」を特集するラジオやテレビの仕事に協力させて頂く機会を得た。世の中、何がつながるかわからない。今週は、少し離れたところから考えてみたい。
最近、様々なメディアで「代替肉」という言葉が目立つ。とくに米国で植物由来のパテを使用したハンバーガーなどが大々的に宣伝されると、その流れは拡大した。「健康志向」「環境負荷軽減」は現代のフードビジネスの金科玉条といえる。これに「持続可能性」が加われば最強だ。
周知のとおり、「代替肉」には大豆などを原料とした「植物由来肉」と、動物細胞を培養して作る「培養肉」の2つがある。これらをまとめて「代替肉」と称し、一斉に市場が動き始めた感が強い。
だが、古来より蛋白質を多く含む大豆は「畑の肉」と呼ばれてきた。日本ハンバーグ協会のホームページ(※)を見れば、1968(昭和43)年に「大豆たんぱく製人造肉の試食開始(衆議院物価対策特別委員会にて)『本物と味や舌触りは変わらない』技術の発展とともに『大豆(ソイ)ミート』として人気に。現在、丸大『お肉のような大豆ハンバーグ』などが発売中」と記載がある。
やや脇にそれるが石ノ森章太郎氏の「人造人間キカイダー」がテレビ放映されたのは1972年である。この頃は「代替」ではなく「人造」の方が時流だったのかもしれない。
そう、1960(昭和35)年生まれの筆者が小学校の頃、大豆ハンバーグはコロッケなどとともに簡単に手に入る夕食の食材であり、遠足の時の弁当のおかずでもあった。
そもそも日本の食生活においては、味噌・醤油・豆腐・納豆・湯葉...、大豆由来の食品は極めて豊富である。したがって、「代替肉」として先の「植物由来肉」が大々的に宣伝されてきたときの第一印象は「何を今更...」であった。発想も技術も全く異なる「培養肉」は別にして、根強い需要のある商品をお色直しの後、再び出してきたか...という感じである。
もちろん、この半世紀の間の食品製造・加工技術の進歩は著しい。かつての「人造肉」と現在市場に出回る「代替肉」とは味、食感、イメージなど全てが大きく異なるであろう。実際、いくつか食べてみたが非常によく出来ている。
だが、なぜ、「代替肉」として古い商品を新しい売り方とともに出してきたか、これが重要だ。
あくまでも一般論だが、日本人は往々にして概念の総合的把握は得意だが、それを個別具体的に体系化するのは苦手かもしれない。伝統的な日本の職人の作業や所作を代々伝えるのは得意だが、その内容を分割し、誰でも出来るようにマニュアル化・体系化するのはどうも欧米人、とくに米国人の方が得意かもしれない。
日本の製造業の工場を見学して作業着の従業員を見たスティーブ・ジョブズが、自らの仕事着として黒いシャツとジーンズを選び、それをトレード・マークにしたのは良く知られている。そのスタイルが逆輸入されて日本でもある種の流行になる...という循環、これが長年、至る所で繰り返されている。
日本人は「大豆ハンバーグ」を半世紀以上、普通に食べてきた。ところが欧米人にとって大豆はあくまで搾油原料や家畜の飼料であり、一部を除けば食品ではなない。ここに「健康志向」「環境負荷軽減」「持続可能性」の3点セットが登場し、装い新たに欧米メーカーが売り出し、メディアが宣伝し...、と一連の流れが続く。背景には将来の食肉不足、つまり蛋白質不足や動物愛護などの動きがある。消費者、食品メーカー、そして生産者も、これらを踏まえている限り時流に乗る素材となる。
大事なことはこれからだ。逆輸入してブームが起きるのは自由だが、それを国内の各産地や食品メーカーがどう活かすかが問われる。パッケージや加工を多少変更しただけでは昔から様々な大豆加工品に親しんできた日本の消費者にはすぐに飽きられる。
そうではなく、全国に点在する国産大豆の産地と連携し、この追い風をいかに活かすかである。大豆などの加工に伴う付加価値部分、これを国内で確保できるか海外に依存する形になるか、そして地域の新しい力とできるかどうか、これが「代替肉」競争の新しいステージと言えるかもしれない。
* *
第1ステージを「伝統的大豆ハンバーグ」とすれば、現在の第2ステージは「植物由来肉」、そして、第3ステージは「培養肉」でしょうか。こちらの話はまた機会を見て...、としたいと思います。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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