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観戦は感染に通ず【小松泰信・地方の眼力】2021年8月18日

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共同通信社が8月14日から16日に実施した、全国電話世論調査(回答者数1067人)では、東京五輪開催について、「よかった」62.9%、「よくなかった」30.8%、という結果。五輪期間中、新型コロナウイルスの感染は収まることなく、全国で拡大の一途をたどっている。

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地方紙から見た東京五輪

東京五輪閉会に絡めて、東京五輪に言及した地方紙の社説を紹介する。

札幌市は競歩とマラソンの会場となったが、北海道新聞(8月9日付)は、「五輪憲章が掲げる『人間の尊厳の保持』と矛盾した姿だったと言っても過言ではあるまい」とバッサリ。札幌市も記録的猛暑に見舞われ、選手たちが過酷なレースを強いられたことを取り上げ、「選手が実力をフルに発揮できるとは言い難い真夏の開催は、巨額の放映権料を払う米テレビ局の意向をIOCが重んじるためだ。(中略)選手の意向が反映される余地はない。テレビマネーが支える五輪の現実だ」と指弾する。

さらに、「感染対策は穴が目立ち、(中略)一定の医療資源を五輪関連の感染に割かねばならなかったことは、逼迫(ひっぱく)する東京の医療体制に間接的にせよ負荷をかけたことになる」として、「国民の命と健康が最後まで五輪より下に置かれた大会だった」と総括する。

そして、札幌市が2030年の冬季五輪招致を目指していることから、「今回あらわになった五輪のマイナス面を十分考慮し、このまま招致を続けるかどうか市民の意見を丁寧にくみながら検討すべきだ」とくぎを刺す。

ソフトボールの会場となったのは福島市。福島民友新聞(8月8日付)は、ソフトボールの米国代表監督が記者会見で「福島の人々は素晴らしい仕事をしてくれた」と、スタッフやボランティアに賛辞を贈ったことや、各国チームに提供された県産モモが大好評であったことを紹介しながらも、「震災と原発事故からの歩みや現状、支援への感謝を発信する復興五輪としては不完全燃焼だった」とする。

西日本新聞(8月10日付)は、「地方から見れば、今回の東京五輪も首都再開発を促進するための一大イベントだった。五輪に経済効果を期待する意図は57年前の大会と同じだ。もう東京中心の高度成長の再現を夢想する時代ではない。発想の転換は不可避であると強調したい」とする。

沖縄タイムス(8月9日付)は、「各国の選手たちと、それを受け入れる地域の人々の交流は、後々まで子どもたちに強い印象を残す。オリンピックの開催意義は実は、競技以外のそんなところにもあるが、コロナ禍の東京五輪は、交流イベントが中止に追い込まれたりして大きな制約を受けた」と、開催都市以外での国際交流の機会が奪われたことを残念がる。

河北新報(8月9日付)は、「東日本大震災からの『復興五輪』という理念は、十分に発信できただろうか」と疑問を呈し、「今後も理念を継承していくため、地元からの強いメッセージが必要」とする。さらに、「複数の式典関係者が過去の差別的な言動を問題視され、直前に辞任・解任となった」ことから、今大会の基本コンセプトのひとつである「多様性と調和」が、パラリンピックでは「より注目される」ことに留意を促す。

パラリンピックの学校連携観戦についての賛否

8月16日、そのパラリンピックについて、政府、東京都、大会組織委員会、国際パラリンピック委員会(IPC)は原則無観客での開催を決定した。ただし、小中高校生らが学校単位で参加する「学校連携観戦」については希望者のみで実施する。

この決定を手放しで喜んでいるのは産経新聞のはず。同紙(8月13日付)の主張は、「五輪と同様に『原則無観客は致し方ない』と判断する場合でも、小中高校生に割り当てる『学校連携観戦プログラム』に関しては、実施を決断すべきである」とする。

茨城県がカシマスタジアムで行われたサッカーの昼間の試合に限り、学校連携チケットによる児童、生徒の観戦を実現させたが、「茨城県で五輪観戦による児童や生徒の新型コロナ感染をめぐる問題は起きていない。ウイルス対策が徹底され、一般客との接触機会のない広い観客席は、十分に安全な場所である」ことがその主たる根拠である。そして、「一般客を入れた宮城、静岡両県の五輪会場でも、新型コロナに関する問題は起きなかった」として、「やればできる、少なくともできる可能性があることを、やろうともしない姿勢は、五輪・パラリンピックの開催地として恥ずべきであろう」とまで記している。

他方、「新型コロナウイルスの感染者が増え続け、出口は見えない。深刻な現状を踏まえれば、観客の有無ではなく、『開けるか』から議論し直して当然だ」とするのは信濃毎日新聞(8月14日付)。

「もはや災害時の状況に近い」(厚生労働省の専門家組織)、「制御不能」(都のモニタリング会議)といった、叫びにも似た専門家の警告を紹介し、「基礎疾患がある場合や呼吸機能が低下している場合、重症化する恐れは高い。視覚障害の選手は人や物に頻繁に触れざるを得ない。一人では感染対策を完結できない選手もいる。介助者らを含む対策を、組織委と競技団体は徹底できるのか。この感染状況では、政府が『地域に影響しない』とする大会の医療態勢確保にも疑念が募る」と、危機感を隠さない。

「障害者スポーツを多くの人に知ってほしい―。選手や関係者の思いは理解できる」としたうえで、「それも、練習や代表選考で選手間の公平性が保たれ、国内外の人々が命と暮らしの危機から脱しなければ、期待通りには響かないだろう」と冷静に記す。

「学校連携観戦はできない」と萩生田大臣は答えました

東京新聞(8月18日付)は、2人の識者のコメントを紹介している。

「若い世代にもデルタ株が猛威を振るう今、学校連携観戦を行う意味が分からない。バス移動や試合観戦などで集団行動すれば、その間にウイルスが広まる可能性がある。子どもたちが自宅にウイルスを持ち帰れば、今以上に家庭内感染が増えかねない。子どもだからといって、重症化しないとも言い切れない」とするのは、首都圏の複数の医療機関で在宅医療を中心に手がける木村知(きむら・とも)医師。

「子どもたちの観戦は五輪が失敗だったと言われないための取り繕い。子どもたちの政治利用だ」「観戦による教育効果を語ることは本来、簡単ではない。(中略)冷静に考えれば、障害者スポーツを見なくても、障害を理解することはできる。それよりも、障害者が日本の社会でいかに置き去りにされているかということを、人々はもっと考えるべきだ」とするのは、新潟大の世取山洋介(せとりやま・ようすけ)教授(教育政策)。

6月8日の参院文教科学委員会で萩生田光一文科相は、「学校連携観戦」について「仮に観客を入れない大会になれば、残念ですが子どもたちも行くことができないのは当然のことだと思います」と述べている。当然ですよネ、当然!

「地方の眼力」なめんなよ

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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