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【浅野純次・読書の楽しみ】第65回2021年8月20日

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◎鈴木宣弘 『農業消滅』(平凡社新書、968円)

過激なタイトルですが著者の危機意識は極めて強く、このままでは飢饉到来さえありうる、2008年の食糧危機の教訓がまるで生かされていないという話から始まります。

確かに今でさえ低い食糧自給率がさらに大幅に低下していくと言われれば、事は重大です。詳説される種子法廃止、種苗法改定、農業改革(農協壊滅)などの農政からは、日本農業の暗たんたる未来が予見されます。

貿易自由化の進展や農産物の買い叩きも重大ですが、劣らずGMや残留農薬など危険な輸入穀物や酪農品が大量に消費者の元に届いていることにも強い危機感が示されます。農業関係者にはすでに周知のことも多いかもしれませんが、改めて体系的に頭を整理しておくには格好の内容であると思います。

安全保障の要としての農業という観点が日本の国家戦略には決定的に欠けているという事実を中心とした章はとくに重要です。これは単に農業者だけの問題ではないことを国民がどうしたら認識するか、厳しく問おうとする書でもあります。

なお巻末の「政治・行政用語の建前と本音」はいわば「悪魔の小辞典」で思わずクスリとしてしまうでしょう。といっても厳しい真実が浮き彫りにされるので勉強になります。

◎猪木武徳 『社会思想としてのクラシック音楽』(新潮選書、1760円)

経済学の泰斗が執筆した玄人はだしの音楽論というだけでもすごいですが、作曲家の人物分析や楽曲の理論的解説書というだけでなく、音楽を政治、思想、哲学など社会科学の中に位置づけていく中身がとにかく面白い。

例えばバッハは薄給から抜け出したいと願ったが、身分が公務員である限りどうしようもなかった。一方、モーツアルトは大司教とたもとを分かった後の困窮の時代にむしろ多数の傑作を残した。あるいはワグナーはパトロン(とくにルートヴィヒ2世)を軽蔑しつつ利用し尽くした。こんな話がたっぷり分析、紹介されます。

ロシア五人組が崩れチャイコフスキーが生き残った訳、スターリン独裁下のショスタコビッチの心理、さらにはクレンペラー、グールド、朝比奈隆などの演奏家論まで。

残念ながら以下省略しますが、分析と著者個人の思いや体験が縦横無尽に語られていて大いに楽しめるはず。クラシック音楽は歴史と社会を見るための教養の宝庫であることを知る貴重な一冊です。

◎西村秀一 『新型コロナの大誤解』(幻冬舎、1430円)

感染拡大に対し、私たちはとんでもない勘違いをしているのかもしれない、と考えさせられる目からウロコの本に出会いました。

一番の問題はPCR検査です。陽性と出ると全員が「感染者」にカウントされますが、本書によると死んだウイルスが検出されても陽性となってしまうらしい。あるいは細菌と違いウイルスは手指から感染はしない。だから机やドアノブを消毒する意味はほとんどないのだそうです。

アクリル板やビニール幕は空気の滞留を引き起こすのでかえって危険で、飛沫が漂うのを防ぐため換気が決定的に重要なのだとか。だとすれば、飲食店の営業自粛は正解ではなさそう。そしてウレタンマスクは効果ゼロだと(不織布が推奨)。

同じ感染症でも細菌とウイルスでは天と地ほど違うらしい(著者はインフルウイルスが専門)。政府やいわゆる専門家たちは本書のような主張に対して、説明責任があるのではないでしょうか。

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