温暖化対応-政治と科学の協調 JCA客員研究員 伊藤 澄一【リレー談話室・JAの現場から】2021年8月30日
11月に、コロナ禍で1年延期となった国連気候変動枠組条約の「締約国会議」(COP26)がイギリスで開かれる。4月には「気候サミット」がアメリカで世界の主要40か国が参加して開かれた。さらに、8月には「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が「第6次評価報告書」を公表した。IPCCの役割は気候変動に関する最新の科学的所見による評価を世界各国に提供することにあり、政治判断に口出ししない。
政治と科学
COPとIPCCによる政治と科学の協調は、【参考】のように1990年以降30年にわたる。その間の曲折のなかで、COP3(1997年)での「京都議定書」やCOP21(2015年)での「パリ協定」などの成果をもたらした。バリ協定は世界の約200か国の約束として「産業革命前からの世界平均気温上昇を2℃未満に抑え、1.5℃未満を目指す」ことを合意した。
その具体策は、先進国と途上国ともに国情を反映して困難がともなった。アメリカ、中国、ロシア、インドそして日本は上位のCO2排出国であり、一昨年12月のCOP25では小泉環境大臣は苦渋の演説を批判された。昨年2月にはCOP26の主催国イギリスからマートン特使が督励のために来日した。
日本は2030年に向け脱炭素を柱とする新エネルギー政策でCOP26に臨むことになる。太陽光などの再生可能エネルギー(現状の18%から36~38%へ)を主力電源と位置づけ、原発(20~22%目標のまま。現状は6%)で補完して火力を減らす(現状の76%から41%へ)苦しい数字合わせとなっている。2050年の温室効果ガス0へのプロセスは見えない。しかし、菅内閣は世界の動きに合わせ脱炭素への舵を切った。
世界各地での温暖化による異常な自然災害は、日々のニュースとなっている。IPCC6次評価報告書は、66か国200人以上の科学者の精緻な科学的エビデンスによって地球環境の危機的な状況を示した。「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」、「大気、海洋、雪氷圏および生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」と断定。すでに1℃を超え、1.5℃に抑える野心的な目標は、パリ協定以降の各国の目標数値の積み上げでは困難となっている。全世界がコロナ禍のなかにあって身動きがとれない、まさにそのときに科学が政治に示した厳しい結論である。
温暖化とコロナ禍
環境学者たちは、人類が苦闘する新型コロナウイルスも温暖化や飽くなき経済活動の利益追求に起因すると指摘する。溶けた永久凍土からの太古のウイルスの出現、CO2を吸収する熱帯雨林などの大規模な森林伐採、世界各地での無数の森林火災や水資源の枯渇など、すべてが人間活動に起因する。
コロナウイルスは地球環境を代表して、人間の傲慢を糾すバトルに出ているかのようだ。人間がとった対策を突破し、ワクチンすらすり抜けようとしている。人類の命運をかけた政治と科学の協調と連携、その最重要のステージがCOP26となる。京都議定書、パリ協定と並ぶ歴史的な合意があるだろう。
温暖化問題は彼方のテーマではない。秋の農協大会に向けて、温暖化による自然災害やコロナ禍から地域社会を守るために農協の総合力と自治体、他の協同組織等との連携も大切だ。地域住民の「命を守る総力戦」の一端を担うことが農協のテーマとなっていくと思う。
【参考】COPとIPCCの30年
1988年 国連環境計画と世界気象機関がIPCC設立
90年 IPCC第1次評価報告書の公表
92年 国連気候変動枠組条約の採択
94年 同条約の締約国会議(COP)の毎年開催決定
95年 IPCC第2次評価報告書の公表、COP1開催
97年 COP3で「京都議定書」を採択
2013年 IPCC第5次評価報告書の公表
15年 COP21で「バリ協定」成立
21年 気候サミット、IPCC第6次評価報告書の公表
21年 11月。COP26開催予定
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