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「外部化の罠」【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年9月2日

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「外部化の罠」とは前Jミルク専務理事の前田浩史氏の言葉だが、経営のパーツを外注すれば経営が効率化するという発想の落とし穴を考えさせられる表現であり、ここに、それを強く認識させられるデータがある。

酪農家の経営指標比較データに注目

最近の本コラムで、根釧地域の放牧主体のマイペース酪農家の皆さんと当該地域の農協平均との2018年の経営指標データの比較表を示した。今回、最新のデータをいただいたので、それを表のように整理してみた。

根釧地域マイペース酪農とJA平均との経営指標比較

根釧地域のマイペース酪農家9戸の最新の平均値(2020年、森高哲夫氏集計)では、経産牛頭数は、マイペース酪農が41頭に対して農協平均は88頭で、両者には2倍以上の開きがある。しかし、購入飼料や購入肥料などを抑えて、放牧によって生態系の力を最大限に活用した循環型のマイペース酪農の資金返済後の所得は1602万円で、農協平均(TMRセンター参加酪農家を含む)の1535万円よりむしろ多い。

つまり、このデータでは、「放牧型酪農は1頭当たり所得が大きくても規模が小さいから総所得が上がらない」という指摘は覆されている。平均の半分以下の頭数で、牛も快適で、人にも環境にも優しく、無理をしないで、同等以上の所得が得られるのである。

購入飼料代は、農協平均の2988万円に対して、マイペース酪農は486万円と1/6である。だから、飼料が高騰すればするほど、マイペース酪農の優位性は高まる。「購入飼料に頼るほうが、ときどき飼料が高騰しても長期的には総所得で有利だ」とは言えなくなっている。こうしたデータも参考に、経営方針を見直していく努力も不可欠と思われる。

TMRセンター参加農家の平均に注目

ここで、TMRセンター利用農家(42戸)の資金返済後所得が808万円で、農協平均(463戸)を相当に押し下げていることには注意・注目が必要である。TMRセンターは、地域の農協や行政が主導して、大々的に推進されてきた経緯があるので、その点でも、気になるデータである。

「TMR(Total Mixed Ration)」とは、粗飼料と濃厚飼料、ミネラル・ビタミン等をバランスよく含む混合飼料で、牛の完全食である。TMRセンター導入による酪農家のメリットは、

(1)飼料費の軽減=飼料用作物(デントコーン)を独自に生産し、利用することやエコフィードなどの有効利用により国際情勢に左右されることなく良質で安価なTMR飼料を製造することができ、結果として飼料費の軽減が実現できる、

(2)乳量の増加・乳質の向上・牛群の健康状態の安定化=専属の酪農コンサルタントが各牧場を定期的に巡回し、それぞれの牛群の様子を細かく観察、また飼養管理などのアドバイスをすることで、環境と飼料双方からの状況改善により、乳量の増加・乳質及び繁殖の成績の向上・病気の減少につながる、

(3)労働力・労働時間の大幅な減少=それまでは各牧場にて自身で行っていた飼料用作物の生産や飼料の配合などに費やしていた労働力や労働時間が、TMRセンター設置により大幅に軽減され、その時間を飼養管理などに充てることができるようになる、

(4)堆肥の処理からの解放=それまでは各牧場で堆肥の処理に頭を悩ませていたが、飼料生産事業にて堆肥の処理を一貫して行うため、酪農家の負担が大幅に軽減される、

(5)規模拡大と事業継承の促進=飼料費や労働力・労働時間の軽減、酪農コンサルタントの指導による乳質の向上など、酪農経営の安定感が増し、後継者による事業継承が推進される、

などが挙げられ、大いに期待され、大々的に推進されてきた。

ところが、本データで見るかぎりは、現実には、購入飼料費が6918万円と農協平均の2.3倍になってしまい、その他の支出も2000万円も多く、経営が圧迫されている実態が浮かび上がっている。

「外部化の罠」か?

本来、家族酪農経営は、育成から飼料生産、搾乳・飼養管理までの多様な作業を包括的にマネージメントする能力を求められ、それが家族経営の技術的な強靭性にもつながる。しかし、

(1)TMRセンターに参加すると、酪農家が、飼料生産を外部化することで飼料生産の技術・知識が低下し、飼料の品質を見極められなくなり、

(2)TMRセンターが十分に機能を果たしていないと、酪農家はセンターの品質の悪い餌を使い続け、TMRセンター自身もそれを改善する力がなく、そこに悪循環が起こっている可能性がある。これが「外部化の罠」である。

本来、TMRセンターは、上記のように、飼料用作物(デントコーン)を独自に生産し、利用することやエコフィードなどの有効利用により国際情勢に左右されることなく良質で安価なTMR飼料を製造し、専属の酪農コンサルタントが各牧場を定期的に巡回し、それぞれの牛群の様子を細かく観察、また飼養管理などのアドバイスをする組織として期待されているが、そこが現実にはどうなっているかが問われる。

このデータのケースについて、具体的な事情を聞いてはいないので、何とも言えないが、一般的には、外部化すれば効率化されてコストが下げられる、というのは理想だが、歯車が狂うと、外部依存によって自身の技術力を失い、外部組織がそれをカバーする力を持たず、コスト高の悪循環に陥る可能性をよく認識する必要があるということだ。

国、自治体、農協などが強力に推進してきた外部化事業の目玉であるTMRセンターの苦境が生じているとすれば、酪農家に奨めてきた人々は強力に奨めて酪農家に参加してもらってきた責任について、誠意ある対応が求められるであろう。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら

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