(247)季節・「暦」・頃あい【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年9月3日
9月の声を聞くと一気に季節が進んだ気がします。立秋はお盆の前ですが、まだ暑く気分的には夏でした。最近は夜になると虫の声、秋の気配が漂ってきたと言いたいところです。
朝のニュース番組を流していたところ、「今日から『秋』です!」とのコメントが流れた。「そういえば...」と思いながら、少し調べてみた。
6世紀の日本に欽明天皇という天皇がいた。父は継体天皇、母は手白香皇女(たしらかのひめみこ)である。欽明天皇の子供からは敏達天皇、用明天皇、崇峻天皇、推古天皇という形で4人の天皇が出ている。歴史が好きな人にはこの時代の人間関係は非常に興味深いが、ここでは脇に置く。
さて、この欽明天皇の治世は6世紀半ばであり、539頃~571頃とされており、日本書記を見ると、その14年6月、つまり概ね6世紀半ば(欽明天皇14年6月)に以下の記述がある。
「別勅、医博士、易博士、歴博士等、宣依番上下」、これは
「別に勅したまはく、医博士・易博士・歴博士等、番によりて上き下れ」となる。
何となく、意味はわかるが読み方そのものが現代日本語とは違う。例えば「医博士」は「くすしのはかせ」、「易博士」は「やくのはかせ」、「歴博士」は「こよみのはかせ」と読むようだ。「番に依りて」は「つがいによりて」と読み、「交代で」という意味であり、「上き下れ」は「もうできまかれ」と読む。
この時代の正確な読みや音は筆者にはわからないが、少し古い言い方で「参上退下(さんじょうたいげ)という言い方がある。つまり「上き下れ」は現代の感覚で言えば出勤・退勤ということに近いであろう。
この日本書記の項は、最初に家臣を百済に派遣して...、からは始まり、少し後には「又卜書、暦本、種々薬物、可付送」とある。これは占いの本や薬物などとともに「暦本(こよみのためし)」を送れということのようだ。
当時、個人ベースでは「暦」に関する話は既に伝わっていたのかもしれないが、公式の指示として「暦本」の入手を試みたのはこれが最初と考えられている。大化の改新(645)の約100年前の話である。太陰暦・太陽暦などの違いとともに、日本に「暦」が入った時期についても覚えておくと思わぬところで役に立つ。
さて、気象庁のホームページの中に「時に関する用語」※1というページがある。そこには「2~3日」と「数日」の違いや、「しばらく」と「当分」の違いなどが記されている。「未明」「夜明け」「夜明け前」「明け方」の違いなど、日常生活の中で用いる場合と、気象予報で用いられる場合では意味が異なる。
したがって、「本日未明...」という言い方と「本日明け方...」という言い方を聞いた時、例えば、雪崩発生が午前3時の場合にはどちらの言い方も可能となる。同じ事は「昼過ぎ」と「夕方」にも相当する。こちらの境界は午後3時である。徹底的な区分けが好きな方には午後2時59分は「昼過ぎ」、午後3時1分は「夕方」になる。「今日の昼過ぎ(夕方)お会いしましょう」という言葉を受けた時、何時頃を想定するだろうか。
これは別に茶化している訳ではなく、同じ言葉を聞いても話す方の世界(定義)と聞く方の世界(定義)が異なることがあるという一例である。
定量的区分けが好きな人にとって夏は8月31日で終わり、秋は9月1日からである。会社や学校などはそれで良いが、農産物を収穫日で夏野菜と秋野菜に区別すると、わかりやすいが、やっかいな問題がいろいろと生じる。同じナスでも1日違いで「夏ナス」になるか「秋ナス」になるかが分かれる。
こういう時のために日本語には「頃」という便利な言葉があるが、本来は当該時点の前後を含めて漠然とした領域や時間を示したこの言葉も、3時頃は2時〇〇分~3時〇〇分まで!となると季節の区分と同じになる。これはこれで何とも言えない。
* *
筆者の両親の世代は日常生活の中で頻繁に二十四節季を用いていたと思います。私自身、それなりに使用してきました。最近は異常気象の影響もあるのか、それこそ季節の「頃あい」が難しくなってきたと感じています。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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