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いかにして「格差と環境」に向き合うのか【小松泰信・地方の眼力】2021年9月15日

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「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠) 政策決定者向け要約(SPM)の概要より。(以下、IPCC報告書と略す)

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地球温暖化への二正面作戦

「『数十年に一度』という豪雨が頻発している。九州は今年もまた、多くの住宅街や農地、山林が深刻な水害に見舞われた。私たちは未曽有の気候危機の中にいる。そんな不安を科学的に裏付けるリポート」としてIPCC報告書を位置づけるのは、西日本新聞(8月31日付)の社説。

日本政府が2021年4月に、2030年度のガス排出削減目標を13年度比で26%減から46%減に引き上げたことを紹介し、「達成には、高効率な太陽光発電や水素の活用、二酸化炭素(CO2)を再利用するカーボンリサイクルといった技術革新を一段と加速させる必要がある。石炭火力発電への依存を着実に下げることも肝要だ」とする。

他方で、「温暖化が進む以上、当面は異常気象も頻発すると覚悟せねばならない。河川の氾濫、浸水被害を防ぐインフラ整備や、高温に強い農作物の開発など温暖化に対する『適応策』に力を入れることも大切だ。とりわけ、命を守るために地域の防災力の向上を急ぐ必要がある」として、地球温暖化への二正面作戦を提起する。

わが国の及び腰政策と炭素税の本格導入

北海道新聞(8月11日)の社説は、環境省と経済産業省が7月に公表した新たな地球温暖化対策計画案において、「家庭は66%減と踏み込む一方、排出量が大きい産業や運輸は37~38%の削減にすぎず、経済界への及び腰が目に余る。これでは世界有数の排出国として責任ある姿勢とは言えまい」と指弾する。

信濃毎日新聞(9月3日)の社説は、脱炭素社会の実現に有力な手段として期待される「炭素税」(二酸化炭素(CO2)の排出量に応じた企業への課税)の本格導入を取り上げている。同税は、「欧州を中心に導入が進む。税率の最高はスウェーデンでCO21トン当たり日本円換算で1万4400円。フランスは5575円、英国は2538円だ。日本では12年から、炭素税の一種である『地球温暖化対策税』を導入している。289円と低いため、排出削減効果が乏しいと指摘されてきた。税率を実効性のある水準まで引き上げ、欧米の炭素税のような役割を持たせるべきだ」として、その本格導入に向けた検討を求めている。

小西雅子氏(世界自然保護基金(WWF)ジャパン専門ディレクター)も、毎日新聞(9月15日付)で、「例えば、CO2 1トン当たりの炭素税を最初は3000円、20年後は1万円といったように、CO2排出のコストが将来にわたって予見できる形になれば、産業転換を促すことができる。脱炭素エネルギーが競争力を持ち、石炭火力は経済合理性から選択されなくなる」として、速やかにCO2排出量に応じて費用負担を求める制度の導入を提言している。

石破茂×斎藤幸平

ジミリンピック(自民党の総裁レースを指す当コラムの造語)の中で、煮え切らぬ姿をさらした石破茂氏が、『人新世の「資本論」』で注目される斎藤幸平氏(大阪市立大大学院准教授)と、「新首相は格差と環境に向き合え」という時宜にかなったタイトルで対談している(『サンデー毎日』、9月26日号)。興味深い箇所のみ抜粋する。(強調文字は小松)

【なぜ日本は気候変動に関心がないのか】

斎藤;気候変動に対する危機意識は日本では依然として低い。東京暮らしだと危機感が薄くなる。1次産業をやっていないからだ。

石破;確かに街頭で訴えても聴衆が沸かない。(中略)票にもカネにもならないから政治家もあまり訴えない。

【資本主義が格差と環境危機を生み出す】

斎藤;二酸化炭素を出す都市住民の生活を変える必要がある。

石破;資本主義が誤作動を起こしたわけではない、という事実を直視すべきだ。資本主義自体は機能してきた、その結果として資源を食いつぶし、格差と分断を拡大してきた。気候変動と格差問題。次期首相候補がぜひとも語るべき問題だ。

斎藤;私たちは資本主義そのものに緊急ブレーキをかけなければならない。今の富裕層は金持ちになり過ぎているだけでなく、彼らが出す二酸化炭素はものすごく多い。そこに規制をかける。累進課税、金融資産課税、相続税など(後略)。

【豊かな日本から幸せな日本へ価値転換】

石破;トータルで成長はしないかもしれない。(中略)でも圧倒的多数の一人一人の幸せは増高していく。そういう考え方に変えなければいけないんじゃないか。

斎藤;我々が取り組むべきことがある。一つは脱成長だが、もう一つは、水や電気、交通、教育といったコモン、つまり、私的所有や国有とは異なる生産手段の水平的管理だ。ソ連的な上からの国有化ではない。

「格差と環境」に向き合う「2030戦略」

対談を読む限りの話だが、石破氏には総裁になって「格差と環境に向き合う」政党づくりに勤しんでいただきたかった。

実は半年ほど前から本格的に向き合い、2030年度までに二酸化炭素を50~60%削減するという目標を掲げた「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」が9月1日に発表された。ジミリンピック報道で手一杯なのか、残念ながら、現時点では一般メディアからは無視されているようだ。

詳細はご自分の目で確認していただくとして、当コラムが注目したのは、科学的知見を踏まえた戦略であるとともに、システムの「公正な移行」を明記している点である。まずは、「再生可能エネルギーは、将来性豊かな産業であり、地域経済の活性化にもつながる大きな可能性をもっていますが、そこでの雇用が非正規・低賃金労働ということでは、『システム移行』への抵抗も大きくなり、地域経済の活性化どころか、衰退に拍車をかけるものにもなりかねません。脱炭素化のための『システムの移行』は、貧困や格差をただし、国民の暮らしと権利を守るルールある経済社会をめざす、『公正な移行』でなくてはなりません」という叙述を紹介しておく。図らずも「格差と環境」に向き合ってますよね、石破さん! 

「共産党は暴力的な革命というのを、党の要綱として廃止してませんから」と、テレビ番組で厚顔無恥に無知不勉強をさらけ出した弁護士らしき人物は、この「2030戦略」を勉強して、自分の頭を叩いてごらん。聞こえるよね、文明開化の音が。

「地方の眼力」なめんなよ

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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