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【浅野純次・読書の楽しみ】第66回2021年9月22日

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◎堤未果『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書、968円)

デジタル庁、スーパーシティ、GIGAスクール、キャッシュレス社会といった言葉が飛び交っています。

日本はデジタル戦争で世界に立ち遅れたというので、あらゆる分野でデジタル化を積極的に進めるべきだという政治家、経営者が急増しているようです。

著者はその実態を克明に追いながら、このままでは日本の資産が米中に支配されるようになると予想し、一部の企業、一部の人々だけが高笑いする時代が間近に迫っていると警鐘を乱打します。

強欲資本主義がデジタル化を進めてデジタルがファシズムと組み合わさったときに、その獰猛さは極まるのだと著者は断言するのですが、確かに最強のデジタルが権力を握るに至った世界って怖そうですね。とくにおカネのデジタル化にはよほど注意が必要です。

「教育が狙われる」の章から少々引用してみます。生徒たちの個人データをグーグルが収集し、学校の敷地に5G基地局が建てられ、オンライン教育が恒常化し、IT企業が教育を投資商品にし、教科書全廃でタブレット教育が全盛化し、生身の先生は減るばかり...。

教育をビジネスとしか考えないこんな近未来はご免こうむりたいものです。デジタルの功罪をしっかり見据える時が迫っています。

◎マイケル・ルイス『最悪の予感 パンデミックとの戦い』(早川書房、2310円)

『マネー・ボール』を読んでいれば、マイケル・ルイスのすごさはご存じのはず。野球好きの方で未読なら絶対のお薦めです(ハヤカワ文庫NF)。

今回の書はコロナ禍において悪戦苦闘する勇士たち(ヒーローもヒロインも)の物語です。最初は彼らの昔話が長々出てくるし、途中でも何度もエピソードで脇道に話がそれていくので少々苦労しますが、それらは重要な意味をもっていたことが後段でわかります。

米国はコロナ対策では先進国かと思いきや官僚主義の跋扈によって多数の犠牲者を出してきたことを知らされます。とくに感染症対策の中心であるCDC(米疾病対策センター)が感染対策の障害になってきたことが明らかになる過程など、さすがルイスならでは。

ブッシュ政権下のインフルエンザ対策からトランプ政権下のコロナ対策の混迷まで、日本も他国のことは言えませんが、大いに勉強になりました。まだ先の長い戦い(コロナとの共存)であればこそ、本書から学ぶところは大きいはずです。

◎加藤俊朗・谷川俊太郎『新版 呼吸の本』(フォレスト出版、1760円)

呼吸が大事なことは誰でもわかっているはずですが、実際にはおろそかにされています。詩人の谷川さんが質問し呼吸家の加藤さんが答える構成のこの本からは、呼吸の重要性と知られざる可能性が浮かび上がります。

まず質問から。深呼吸と呼吸法はどう違うのですか。呼吸法はいつどんな場所でするのがいいのですか。呼吸数は健康と関係していますか。意識して呼吸するしないでどんな違いがあるのですか。

答えの中で私が気に入った数例を。呼吸法は夜、寝る前にして気持ち良く寝ること。不健康な呼吸は速くて乱れている呼吸です。息を吐くことは執着を取り払うこと、だから吸うより吐くが大事なのです。呼吸には意識が大事で意識次第で健康も変わります。

単なる呼吸技術の本ではなく、宇宙、意識、気づき、心など教えられることが多く、軽妙な対談も面白い。たかが呼吸、されど呼吸。吸うか吐くか、気になる方にはお薦めです。

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