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岸田新内閣の課題―岸田文雄は第二の池田勇人になれるか!?【緊急寄稿・森田実の政治評論】2021年9月30日

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「政(まつりごと)は民を養うに在り」(禹)


岸田文雄新総理総裁には目ざすべき政治家のモデルがある。
1960年に内閣総理大臣に就任し、「所得倍増」を掲げて高度成長政策を実行し、日本を軽武装の経済大国へ導いた、郷里の大先輩の池田勇人総理である。岸田文雄氏は、池田勇人総理の側近で、のちに総理大臣になった宮澤喜一の親族でもある。

1958年から60年にかけて、日米安保条約の改定をめざした岸信介内閣に対し、社会党を中心とする革新陣営は激しい闘いを挑んだ。
私は当時、革新の側にいたが、安保改定は阻止できなかった。だが、岸信介内閣は倒した。
代わって登場した池田勇人内閣は、政治の方向転換に成功した。池田が目ざしたのは、岸信介とは異なり、平和的経済国家への大転換だった。
池田内閣の登場とともに、国内の空気は一変した。岸時代の荒々しい闘争の時代は終わった。

池田内閣の方向転換を主導したのは、大平正芳内閣官房長官だった。大平は池田内閣の「低姿勢」「寛容と忍耐」「国民とともに」の政治姿勢を打ち出し、政治のイメージチェンジをはかった。
1960年7月のある日、大平正芳氏の親友の岳父が香川県から突然上京してきた。岳父は医師だったが、大平氏とは中学の同窓生だった。岳父は「大平から呼ばれた」と言った。私は案内役となって、総理大臣官邸の内閣官房長官室を訪ねた。当時の官房長官室は小さな部屋だった。

大平官房長官は礼儀正しい品格ある紳士で、自らが目ざす政治、すなわち日本を平和的経済国家として再建するため池田勇人総理とともに全力を尽くす、と謙虚に語った。私は自民党にも非常に謙虚な政治家がいることを知った。

池田勇人総理にも私は数回会ったが、紳士で謙虚でありながら堂々としていた。池田・大平両氏ともに大変すぐれた人物だった。
今の2021年の日本と1960年当時の日本とは共通点がある。2021年の日本は長期不況とコロナ禍で傷ついている。国民の経済生活と福祉の再建が急務である。
1960年当時も似た状況にあった。池田勇人政治の再興をめざす岸田文雄総理の登場は歴史の必然といえるかもしれない、とも感ずる。
だが、状況は甘くはない。1960年の池田勇人総理は対決型の前岸信介内閣の政治をきっぱりと否定し、一大方向転換をはかった。池田勇人内閣は自主性ある実力内閣だった。
しかし、岸田文雄総理には、二人の野心過剰のキングメーカーがぴったりと付き添い、離れようとしていない。安倍晋三元総理と、麻生太郎現副総理、財務・金融大臣(元総理)である。

岸田文雄総理にとっての当面の最大の試金石は、新内閣人事における麻生太郎副総理、財務・金融担当大臣の扱いである。
岸田文雄氏が総裁選出馬にあたって最も強調したのは、「党幹事長の連続在任期間を3年に限る」との党改革の主張だった。岸田氏は、麻生の政敵、二階俊博幹事長を攻撃したのだ。これをきっかけに菅義偉総理を退陣に追い込んだ。
岸田氏が「幹事長任期の縮小」を主張しながら、麻生太郎副総理、財務・金融大臣の長期留任を問題にしないことには、政界、国民の一部に強い不信がある。
政治家の権力の強大化を防止しようとするなら、依怙贔屓(えこひいき)は許されない。もしも岸田新総理が依怙贔屓を行えば、来るべき衆院選において岸田内閣への批判は爆発する恐れなし、としない。

岸田新総理の最大の課題は、安倍・麻生二人のキングメーカーから自立することである。
岸田新内閣が、「安倍・麻生の傀儡(かいらい)内閣」と呼ばれるようであれば、来るべき衆院選で岸田新内閣は沈没するかもしれない。

岸田新総理総裁がモデルとする池田勇人内閣は、第2次大戦後の76年の歴史において最もすぐれた内閣だった。岸田文雄氏が第2の池田勇人になろうとするのであれば、少なくとも独立自尊の政権を造らなければならない。
岸田文雄氏が希代の仕事師の二階俊博氏を幹事長から外し、麻生の留任を認めるようなあまりにも偏った不公平人事を行うことは許されない。
政治権力の運営は総理一人ではできない。菅義偉前総理は一人でやろうとして失敗した。政権運営はチームで行わなければならない。
池田勇人氏には、益谷秀次、前尾繁三郎、大平正芳、宮澤喜一ら有能な同志がいた。大野伴睦、河野一郎、川島正次郎らの実力者も協力し、強いチームを造ることに成功した。
岸田新内閣が、来るべき衆院選を乗り切り、日本国民のための政治を行うためには、自前の自立した政権チームを確立しなければならない。これを可能にできるか否かは、岸田文雄に安倍・麻生のダブルキングメーカーから独立する勇気があるか否かにかかっている。


【コラム:森田実の政治評論の記事一覧はこちら】

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