若者たちよ、変えるのは君たちだ【小松泰信・地方の眼力】2021年10月13日
「手軽に情報を発信できる時代だ。飛び交う情報の真偽を見極める力が重要となる。私たちも責任の重さをかみしめ、権力におもねることなく『真実』を伝える努力を続けたい」で締めたのは、西日本新聞(10月13日付)の社説。ロシアとフィリピンの報道関係者に今年のノーベル平和賞が贈られることを受けて。
若者はもう黙っていられない
毎日新聞(10月13日付)は、若者の投票行動に焦点を当て、識者の刺激的な意見を紹介している。
「若者に貧困がどれほど広がっているのか政治家の方々には見えていないと感じます」で始まるのは、10代女性を支える活動を行っている仁藤夢乃氏(にとう・ゆめの、一般社団法人Colabo代表)。
コロナ禍で特に増えたのが学生からの相談。「『学費が払えない』『家賃が払えない』『今日食べるものがない』と。ところが困窮する大学生を支援したくても使える公的制度がない。生活保護は大学生を対象としていないからです」と問題点を指摘する。
そして「『若者は選挙に行かない』と大人は言います。『声を上げなければ』と。でも大人は子どもに権利を主張することを教えてこなかった。声を上げれば政治や社会を変えられる、という姿も見せてくれなかった。そもそも大人は声を上げていますか。声を上げている人を支えていますか。私たちはあきらめず声を上げます。(中略)声を上げることで運用を変えることができました」と核心を突き、「制度や法律がおかしければあきらめず声を上げる。1人の相談者のための働きかけが社会を変え、何人もの似た境遇の人に道が開ける。その姿を若い人に見せていく。Colaboのシェルターで暮らす少女たちは、選挙権を得れば必ず投票に行きます。なぜか分かりますか。自分が声を上げれば社会が変わる、と実際に体験したからです」と訴える。
長田麻衣氏(おさだ・まい、15歳から24歳に特化したマーケティング研究機関であるSHIBUYA109 lab.所長)も、「そもそも日本では、Z世代(1995年以降に生まれた世代)に限らず、30代、40代でも、政治について踏み込んだ話をしにくい雰囲気がある。それが、若者を政治から遠ざけている理由の一つではないだろうか」と指摘する。
「夏に、Z世代の政治に関する意識を調査したところ、約8割の人が投票したいと考えていることが分かった。若者の投票率の低さが課題として指摘されているので、驚いた。聞き取り調査によると、一番影響しているのは新型コロナウイルスの感染拡大だ。生活がダメージを受けているため、どのような対策が取られるのかに強い関心がある。加えて、政治にかかわる人たちの間で、ジェンダーや夫婦別姓といった、若者が強い関心を持つ問題での共感できない発言などが表面化したことも、影響している。(中略)一方、今回の調査では、若者が政党ではなく、政治家や候補者といった個人に目を向けていることも分かった。政党の主張ではなく、その政治家が信頼できるかどうかや、応援したいかどうかをみている」と分析している。
提案する農系高校生
若い後継者の不足が重い課題としてのしかかる農業。日本農業新聞は10月9日付から5回シリーズで、農業の可能性や課題を学んできた農系高校生に、選挙への期待や注文を聞いている。興味深い意見を抜粋して紹介する。
「農業の多面的機能を守るためにも、若い農家を増やす政策が重要と思います。(中略)農業の役割を評価し、しっかりと守る政策の議論を深めてほしいです」(佐賀県立高志館高・古川志麻氏、9日付)
「若い人の就農を後押しするために何が必要か、選挙の中でしっかり議論をしてほしいです」(福島県立福島明成高・菊地拓真氏、9日付)
「JGAP(日本版農業生産工程管理)の生かし方について、各党には政策を競ってほしいです。有機農業の拡大にはコスト低減が欠かせません。有機農業にどう向き合うか各党に方針を示してほしいです」(栃木県宇都宮白楊高・坂本潤弥氏、12日付)
「選挙では農業政策も論じ合ってほしいです。特に、食料供給にも大きな影響を与える飼料自給率をどう高めるかを考えてほしいです」(大分県立久住高原農業高・工藤光生氏、12日付)
「年を取った政治家が使う言葉は、難しく聞こえてしまい、距離を感じます。若い政治家が私たちの世代と近い目線を持って、新しいものを取り入れながら、農業や地域の風景を守る施策を考えてほしいです」(鳥取県立倉吉農業高・磯江真純氏、13日付)
士幌高校が取り組む主権者教育
日本農業新聞(10月8日付)によれば、北海道士幌町立士幌高校において、衆院選を見据え、参政意識を高めるための新たな試みとして、選挙権を持つ生徒を含む3年生が、各党の政策や過去の選挙公約を事前に調べ、6、7日の両日に議論したとのこと。
「次の衆院選でも公約を調べて一票を投じたい」「農業政策が他分野に比べて少ない。衆院選でしっかり議論してほしい」とは生徒の声。この的確で鋭い,そしてピュアな意見を忘れないでほしい。
「若いうちから政治に目を向け、農政を含め自分の考えを持つきっかけにしたい」と期待を寄せるのは、この意欲的な授業を企画した山下秦矢教諭。悲しいかな、主権者教育ができにくいわが国の学校事情。応援しなければならない授業である。
農業を食い物にする政治屋は許さない
同紙同日3面に、「衆院選6次推薦41候補者決まる 全国農政連」の記事あり。JAグループの政治組織である全国農業者農政運動組織連盟(全国農政連)が、今回の衆院選の第6次推薦候補者を決めたことを伝えている。全員自民党。
たった今高校生が目にしているこの国の農業を、惨めな衰退産業にしたのは自民党農政と言っても過言ではない。JAグループはいかなる総括をすれば、農民票を渡すことが決定できるのだろうか。疑問と憤りを禁じ得ない。
士幌高校で主権者教育が行われていた頃、東京地裁では、元農相で元衆院議員の吉川貴盛被告に現金計500万円を渡したなどとした贈賄罪や政治資金規正法違反罪に問われた鶏卵大手「アキタフーズ」元代表秋田善祺被告に対し、「行政への国民の信頼を害した」として有罪判決が言い渡された。収賄罪に問われている吉川被告は、自身の公判で現金受領を認めた上で「政治献金だと受け止めていた」と無罪を主張している。
吉川被告は2017年10月に行われた衆院選において北海道2区(札幌市北区、東区)で当選した人。当然全国農政連の推薦は受けている。無罪を主張しているが、道義的責任は免れない。にもかかわらず、説明責任を果たさず、入院、そして辞職。
士幌高校の生徒たちには、吉川問題について、推薦した組織に対しどうけじめを付けようとしているのか、問うて欲しい。
ガッカリするような答えしか返ってこないはず。失望することはない、君たちが変えていく、大きな目標ができたのだから。
「地方の眼力」なめんなよ
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