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種苗法改定をめぐる2つの基本的論点を再度問う~あなたはどう考えますか【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年10月28日

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種苗法が改定され、2022年4月から施行されるが、(1)日本の種苗の海外流出を防ぐ手段(2)種苗の知財権の帰属、という基本的なポイントについての見解の相違は解消されていない。もう一度、整理してみよう。

(1) 日本の種苗の海外流出を防ぐ手段

[見解1] 種苗法改定で農家の自家増殖を制限する最大の目的はシャインマスカットのように日本の大切な種苗が海外に流出するのを防ぐためである。

[見解2] 海外での無断栽培の取り締まりは、当該国での品種登録によってしか根本的には規制できない。国内農家の自家増殖が原因で海外流出した例はなく、海外流出を防ぐために自家増殖を制限するという論理は成立しない。

むしろ、コメなどの公共種子事業と開発した種苗の知見の民間企業へ譲渡を促し、企業が得た種苗の自家増殖を制限して農家が買わざるを得ない状況をつくっていく一連の流れは、海外企業に日本の種苗が取られていくことにつながる。つまり、種苗の海外流出を促進してしまう危険があるのではないか。

(2)種苗の知財権の帰属

[見解1] 種苗を開発した人の知財権は強化されるのが当然で、そもそも農家の自家増殖を認めるのがおかしい。

[見解2]「種は誰のものなのか」ということをもう一度考え直す必要がある。種は何千年もみんなで守り育ててきたものである。それが根付いた各地域の伝統的な種は地域農家と地域全体にとって地域の食文化とも結びついた一種の共有資源であり、個々の所有権は馴染まない側面がある。育成者権はそもそも農家の皆さん全体にあるといってもよい。

種を改良しつつ守ってきた長年の営みには莫大なコストもかかっているといえる。そうやって皆で引き継いできた種を「今だけ、自分だけ、金だけ」の企業が勝手に素材にしてゲノム編集などによる改良を施して登録して儲けるのは、「ただ乗り」して利益を独り占めする行為である。それが広がれば、在来種が駆逐されていき、多様性も安全性も失われ、種の価格も上がり、災害にも脆弱になる。

だから、農家が種苗を自家増殖するのは、種苗の共有資源的側面を考慮すると、守られるべき権利なのではないか。だからこそ、諸外国においても、何らかの形で自家増殖は認められており、登録品種についての無断自家増殖を例外なく禁止した我が国は世界的には特異な国であることを認識しなくてはならない。

もちろん、育種しても利益にならないならやる人がいなくなる。しかし、農家の負担増大は避けたい。そこで、育種の努力が阻害されないように、よい育種が進めば、それを公共的に支援して、育種家の利益も確保し、使う農家も自家採種が続けられるよう、育種の努力と使う農家の双方を公共政策が支えるべきではないだろうか。

あなたはどう考えますか。日本の大事な種苗を守り、育種の努力を支援しつつ、世界で認められている農家の自家増殖の権利を保証し、安全で安心できる種苗による国内生産と消費の連携による食料自給率の向上を図りたいという思いは、みな同じであろう。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら

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