米農業団体の協同組合月間の取り組み【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】2021年11月2日
米国での10月恒例のイベントと言えばハロウィンが思い浮かぶ方が多いのではないだろうか。
スーパーではハロウィンの装飾用として大小さまざまなサイズのカボチャがならび、住宅街にはカボチャの他、ガイコツやお化けなどがきれいに飾られた家が目立つようになる。リンゴ狩りやイチゴ狩りを行う農園があるのと同様に、カボチャ狩りを行う農園もあり、家族連れで大賑わいとなる。
ナショナルファーマーズユニオンによるオンライン研修会の様子
10月は協同組合にとり重要な月
ハロウィンで少々浮かれたムードが漂う10月であるが、米国の協同組合関係者にとっては、10月は別の意味で重要な月となるようである。1964年に米国農務省のフリーマン長官が10月を「協同組合月間」として定めて以降、毎年10月は協同組合の価値や理念を人々に広く伝える機会となっているのだ。
米国農務省によれば、米国には各種各業界の協同組合が4万以上存在し、累計の組合員数は3億5千万人に上ると推定されている(注:協同組合組織数については出典により異なり、約3万~6万組織と幅がある)。
米国の協同組合には農協や生協、信用組合、医療といったものをはじめ、電気、水道、通信などのインフラ、教育、住宅、協同労働など、実に多種多様な分野に協同組合が存在し活動している。
参考までに日本のデータにも目を向けてみたい。日本協同組合連携機構(JCA)が取りまとめた協同組合統計表(2018事業年度版)によれば、日本国内の協同組合組織数は約4万2千組織、組合員数は累計で約1億500万人と報告されている。
日米を比較すると、協同組合組織数は日米で同水準であるから、単位人口あたりの協同組合組織数は日本の方が多いということになる。他方、協同組合への参加率(累計組合員数/総人口)は、米国の方が高水準にあることがわかる。
なお、農協については、米国には2019年時点で約1800の組合があり、組合員の総数は約190万人、協同組合で働く労働者の総数は18万となっている。また、組合総数の約6分の1にあたる317組合は設立から100年以上が経過しているという。
米国における農協は農畜産物の販売を行う販売農協、資材の供給を行う購買農協など事業別に分かれ、品目ごとの専門農協が主体になるという特徴がある。このため日本の農協とは単純比較はできないが、いずれにしても、米国農業において農協は重要な地位を占めているといえる。
農業団体は協同組合の取り組みに関する研修会を精力的に開催
米国では農業団体も品目ごとに分かれて存在しているが、いわゆる農業者の代表としての品目横断的な団体も存在している。約25万人の会員が加盟し、主要農業団体として数えられるナショナルファーマーズユニオンは、10月に3回にわたり協同組合に関するオンライン研修会を開催した。
そのうちの一回、「地域の食料システム構築」をテーマとした回では、米国北西部モンタナ州の農協や食品関連事業者、地域振興を目的とする非営利法人の職員らが講師として登壇し、国内市場のアクセス拡大に向けた草の根的な取り組み事例の紹介が行われた。このなかで講師からは「小規模農家に対し、大規模化するか撤退するかを迫るような考え方ではなく、協同による販売規模拡大を目指してきた。そのため、地域の食料システムにおける関係性や信頼性の構築に投資することを重要視してきた。規模の経済や統合による経済ではなく、協力の経済を構築してきた」「(地域において)協力的なネットワークを構築するためには、価値観の共有や信頼関係の構築などに多くの時間を費やし、それらを重要なインフラのように扱うことが必要だった」「我々の取り組みはまさに協同組合原則の第6原則"協同組合間の協同"を具現化したものだ」といった発言がなされた。
米国の農業というと、我々は日本と桁の違うの大規模農業の姿を想像しがちであるが、こうした地域コミュニティや協同を大事にする取り組みが行われていることも強調しておきたい。
伊澤 岳(JA全中農政部国際企画課<在ワシントンD.C.>)
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【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】
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