ご飯の匂い物質の種類は1000種類【熊野孝文・米マーケット情報】2021年11月24日
ご飯(炊飯米)の中にどの程度の匂い物質が含まれているかご存じだろうか? おそらく知っている人はほとんどいないと思われる。著者も最近聞いた話で、請け売りで申し訳ないが、なんと1000種類の物質が含まれているそうである。そうした研究を行っているところがあるのかと思うと、ご飯を液状にして特殊な光を当て、その光で液状の分子分布を解析、パックご飯の食味改善に生かせないか検討しているところさえある。ナノレベルで進む物質の解析技術は食品の価値を決める新たな技術になりつつある。
昔、日本にも香り米と言うコメがあった。今でもあるのかもしれないが、さっぱり聞かなくなった。タイの香り米(ジャスミンライス)とは違い、そのコメを古米に入れると炊き上がった時に新米の香りがするというのがウリであった。当時は古米になった政府米が売却されている時代で、保管状態が良くなかったこともあって、この香り米が重宝された。今は、古古米などは売却されなくなったため香り米のニーズは消失した。だからと言って炊き立てのご飯の香りが価値を持たなくなったわけではない。
ワインの例では格安の10ドルワインを高級ワイン並みに価値を上げるためにコルクに高級ワインの匂いを充填させるという事まで行われている。匂いは食欲との相関が深いので匂いを変えることによって価値を上げることができる。ただし、おいしいと感じる匂いはその国や人種によっても違う。日本人がタイのジャスミン米の香りをおいしいと思うか問われておいしいと思う日本人は少ないのではないか。しかし、タイに駐在した商社マンは最初嫌だったジャスミン米が、年数が経つとそれでないと食欲が涌かないと言うまでになってしまうのだから風土と食べ物の相関も深い。しかもタイの香り米は古米ほど価値が高いというのだから日本とは真逆である。
ご飯の香りを新品種開発に生かして誕生したのは福井県の「いちほまれ」が上げられる。
「いちほまれ」を炊いた時の香りには、子ども向けの薬用シロップのような甘い香りの「4-ビニルフェノール」と、低濃度ではジャスミンのような香りだが高濃度で防虫剤のような匂いになる「インドール」の2種類が含まれているそうである。これは昨年福井大学と福井県農業試験場の研究チームが発表したものだが、ご飯の匂い物質の研究成果では初めてのケースではないかと思う。
現在、ご飯の食味評価では「見た目」「香り」「味」「粘り」「硬さ」の5要素で評価することが多い。ご飯と言うからにはコメと同じように水が重要になる。水は極めて重要で魚沼に甘酒工場を作った大手みそメーカーは、甘酒に合う水を探すために全国400カ所も調査して最終的に魚沼を選んだ。その工場の近くにはパックご飯メーカーの工場も数社あるのでコメをおいしく炊くのにふさわしい水があるという事なのだろう。
炊飯する際の水の成分としてどのような成分があるとおいしく炊けるのか、良く言われるのが水の分子が小さい方が良いとされる。分子が小さいとコメに浸透しやすくふっくら炊き上がるという理屈。ただ、炊飯時のコメと水の関係はもっと奥が深い。大手外食企業の依頼を請けて、全国各地の銘柄米の食味テスト行った研究所の結果ではコメと水の関係で意外なことが分かった。それは同じコシヒカリであっても産地によって加水量でおいしさが変わって来るという事やさらには品種によっては加水量によってつぶ感が変わるという事さえわかって来た。加水量を増やすとつぶ感が増す品種もあれば逆に弱くなる品種もある。典型的なのはコシヒカリとヒノヒカリで、加水量によってつぶ感が真逆の結果になる。
なぜこうした現象が起きるのかは明らかではないが、この研究所では仮説としてコメに含まれる硝酸態窒素や、カルシウムなどの成分構成、細胞の密度、アミノ酸の質などが考えられると言っている。
こうしたご飯のおいしさに関する様々な研究が進むと根源的な問いとしておいしさとは何なのか? という疑問が涌いてくる。各産地がこぞって新品種をデビューさせているが、育種目標に共通する項目として「低たんぱく」が上げられる。低たんぱくが果たして本当においしいコメなのか? 若年層では低たんぱくのコメをおいしいとは思わないという調査もある。これはある意味当然でたんぱく質を多く求める若年層ではおいしく感じないのだろう。少なくともコメに含まれる数種のたんぱく質のうちどのたんぱく質がおいしくないと感じさせるのかまでは成分解析で分かるはずである。そうしたことがわかれば「おいしさと機能性を兼ね備えた」新しいコメが育種されることになるだろう。
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