気候変動への関心が高まる米国農業界【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】2021年12月1日
10月31日から11月13日にかけ、英国グラスゴーにて気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催された。COP26の成果として採択された「グラスゴー気候合意」では、世界の平均気温の情報を工業化以前の水準よりも1.5℃の上昇に抑える努力を追求することや、石炭火力発電の段階的な削減、非効率的な化石燃料への補助金の段階的な廃止などが盛り込まれたことが注目を集めた。同合意ではこの他にも様々な点で合意がなされているが、「メタンを含む二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出削減に向けた行動を締約国に求める」とされている点が最も影響の大きい点であると言えよう。
COP26のパネルディスカッションに参加するビルサック農務長官(左)、
民主党系の農業団体ナショナルファーマーズユニオンのラルー会長(中)
米国はどのような立場をとったか
COP26に出席したバイデン大統領は、演説のなかで気候変動による作物の不作について触れたり、クリーンエネルギー分野で活躍する労働者やエンジニアとあわせ"飢餓だけでなく気候変動と闘うために土壌を活用する農業者"と述べるなど、農業分野にも度々言及しながら米国の温室効果ガス排出量削減に向けた意気込みを語った。
演説では更に、農業を含む様々な分野の気候変動解決策を提供する構想を近く発表するとアナウンスしたり、EUと共同でメタンガスの排出量を10年後までに少なくとも30%削減する「グローバル・メタン・プレッジ」の開始を発表するなど、気候変動問題に意欲的な米国の姿勢が示される形となった。
バイデン大統領は今年1月20日の大統領就任初日に地球温暖化の国際的な枠組であるパリ協定への復帰を国連に通知し、4月には気候変動サミットを開催するなど気候変動対策に力を入れた取り組みを進め、現在も議会で気候変動対策や社会保障政策が含まれる「ビルド・バック・ベター法案」の成立を目指した調整が続けられるなど、気候変動対策を重視する姿勢にブレは無いように見える。
農業分野ではどのような進展があったか
バイデン大統領の言葉にもあった通り、米国はCOP26開催期間中に農業関連分野でいくつかの取り組みを発表している。代表的なものは、(1)米国・アラブ首長国連邦による「気候変動対応型農業イノベーションミッション」の立ち上げ(2)米国・EUによる、持続可能性や気候変動等の課題に対応するための「共同プラットフォーム」の立ち上げ(3)メタン排出削減計画である「グローバル・メタン・プレッジ」の開始などである。
(1)、(2)の取り組みについては、研究や協力の推進、投資拡大といった内容が主な内容となるが、(3)についてメタンガス排出はエネルギー部門のほか、農業分野でも稲作や畜産からも排出されており、今後の世界各国の具体的な動きを注視する必要がある。
米国における農業者の気候変動に対する意識はどうか
米国の農政専門誌『Agri-Pulse』が農業者を対象に実施した世論調査によれば、米国農業者の57%が気候変動に対し懸念を抱いており、農業者の45%は温室効果ガスの排出削減に向けた方法の実施もしくは検討をすすめているところであるという。
調査対象の農業者はもともと共和党支持層が多いということもあるが、同調査でバイデン大統領の仕事ぶりを評価すると回答したのはわずか15%に過ぎず、36%が2024年に行われる時期大統領選でトランプ元大統領を引き続き支持すると回答しているのは興味深い点である。
全米最大かつ共和党寄りの農業団体であるアメリカファームビューロー連合は、先述の「ビルド・バック・ベター法案」に関し、米国の農村部に打撃を与えるとして反対の意見書を議会に送付している。主な反対理由としては(1)法案により農村部が得るであろう気候変動対策等の恩恵よりも膨大な政府支出や増税が予想され、農業者の負担が増加すること(2)農場労働者保護等に関する諸規制の罰則・罰金の過度の強化により、偶発的な違反で農業者が廃業に追い込まれる可能性があること(3)法案の検討にあたり利害関係者との間で開かれた透明性の高い議論が行われていないこと、の3点を挙げている。
来年前半には次期5か年の農業政策の基本となる農業法の議論が始まる見込みである。農業法には環境保全対策も含まれており、バイデン政権のもと、気候変動への関心が高まるなかでどのような議論が行われるか、注目が必要である。
伊澤 岳 (JA全中農政部国際企画課<在ワシントンD.C.>)
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